幕間 その14
二年ぶりに、その墓の前に立つ。
手入れの行き届いた墓石は、苔むす事もなくキレイだ。それだけで、この墓の主が今も愛されているのだと伝わってくる。
「久しぶりだな……クラウス」
名を呼んで、花屋で買っておいた花を墓前に供える。アイツが生前好きだった、白百合の花だ。
「全く、面倒な事になっちまった。……いや、いつか来ると解ってたのに、見ないフリをしてきただけなのかもな」
そう自嘲し、笑う。アイツが生きていれば、全くだと文句を言ったのだろうか。
今にして思えば、アイツの研究は、この事態に備えての事だったのかもしれない。
「クーナはますますいい女になったよ。心も技術も、グングン成長してる。頭の良さはお前の方が上だが、実力は、いずれお前を追い越すかもな」
心からの言葉を口にする。本当に、この二年でのクーナの成長ぶりは目を見張るものがある。純粋な力だけなら、同じ歳の頃のクラウスを既に超えているだろう。
だからこそ——不安も大きくなる。
「だが、だからこそ、きっとクーナは狙われた。条件はレオノも一緒だが、より奴らの目的を満たすのはクーナだ。……皮肉だな。強くなればなるほど、アイツの身は危険になる」
それが一番のジレンマだ。異神の軍勢に立ち向かうには強くなる他ないが、クーナが強くなればなるほど、奴らにとって必要な存在になっちまう。
奴らが欲しているのは、より強い神の依代。それを満たすほど、異神はより完全な形で降臨を果たす。
「今お前やリト達がいてくれればと、何度思ったかしれねえ。……歳を食った証拠だな。昔より少し、弱気になった」
昔の俺の方が、実際、まだ覚悟が決まってたと思う。こんな風にないものねだりをするなんて、昔はなかったのに。
ああ、そうだ、ないものねだりだ。今ここにあの頃の仲間達がいてくれたら、何も恐れる事はなかったなんて。
自分一人で総てを背負う重荷に——少し、崩れそうになってるなんて。
「なあクラウス。こんな事を言う俺を、お前は笑うか? それとも、いつものしかめっ面で溜息でも吐くか?」
脳裏に浮かぶのは、長い人生の中でただ一人、相棒と認めた男。黒いローブを翻し、隣に立つお前がいれば何も怖くなかったと言うのに。
「怖いんだ。本当にアイツを、クーナを最後まで守り切れるのか……怖いんだよ、クラウス……」
今、ここでしか吐けない本音を吐き出して。歪めた瞳からは、涙は一滴も出なかった。