第159話 想いを強さに変えて
クーナへ
お前がこの手紙を読む頃には、私はこの世にいないだろう。
せめてお前の誕生までは生きるつもりだったが、それが出来そうにないのは無念で仕方が無い。
私は近いうちに死ぬ。自分の体だ、それくらいは解る。
だからその前に、私の生涯の研究の総てをお前に託そうと思う。
あの日お前には、媒介を通さず魔力を具現化する方法を教えた。
今からお前に教えるのはその発展系。ミスリルのような対魔力物質を用いる事なく、物質に具現化した魔力を宿す方法だ。
恐らくお前の時代には、弱い魔力であれば物質への固着が可能だと伝えられているだろう。
それも正しいが、総てではない。同封した資料に記された方法を使えば、より強大な魔力を付加させる事が可能である。
しかしこの方法を習得するには、魔力の綿密なコントロールを求められる。それはただ魔力を具現化するよりも、更に厳しい修行を必要とするだろう。
その覚悟があるのならば、同封した資料を読むがいい。と言っても、お前はきっと読むのだろうが。
クーナよ、私とエルの血を継ぐ子孫よ。お前ならば、私が果たせなかった事を果たしてくれると信じている。
もう一つ、資料と共に同封した小手は、お前専用にあつらえさせたものだ。
残念ながらミスリル製とはいかなかったが、魔力の固着さえ完璧に習得出来れば壊れる事もないだろう。
曽祖父としてお前に残せる、これは、形に出来る最後の贈り物だ。
嫌でなかったら、受け取って欲しい。
どうか、お前の人生に光があるように。
クラウス・アウスバッハ
「……ひいおじいちゃま……」
一人になって、箱の中に入っていた手紙を読んだ私は、溢れる涙を止める事が出来なかった。
ひいおじいちゃまはずっと、私の為に何か出来ないかと考えてくれてたんだ。夢とも幻ともつかない存在だった、たった一度会ったきりの私の事を、ずっと信じてくれてたんだ。
そして、こうして今、自分の研究と想いを私に託してくれた——。
「……そうだ。めげてなんかいられない」
手の甲で、零れた涙を乱暴に拭う。そうだ。相手の強さは一筋縄なんかじゃないって、そんなのずっと解ってた事じゃない。
残り一ヶ月。とことんまで自分を鍛え上げて、そして——必ずアウローラも、残りの『四皇』も倒す!
「見ていてね……ひいおじいちゃま!」
私に後を託してくれた、ひいおじいちゃまの為にも。
私は、私達は、必ずこの世界の未来を勝ち取ってみせる——!