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星空の小夜曲~恋と未来と、少女の決意~  作者: 由希
第2章 中央大陸編
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第154話 もう一人の『神の器(クリスタ)』

 装備と荷物を全部奪われ、縄でグルグル巻きに縛られて。私達は、官邸地下の牢屋に入れられた。

 この官邸は、王政時代の貴族の屋敷がそのまま利用されている。だから、こんなものも存在するのだ。


「チッ……下手を打っちまった。早くここから脱出しねえと」

「うん、でも……向こうは何をするつもりなんだろう?」

「さあな。だがどうせ、ロクな事じゃあるまいよ」

「ああ……その声はクーナ? クーナなのか?」


 サークと二人、どうするかを話し合っていると突然、別の声が間に割って入る。それは、私のとてもよく知る声だった。


「まさか……お父様!?」

「ああ、やっぱり……! 何て事だ、まさか、クーナまで捕まったなんて……!」


 そう嘆き悲しむ声は私の父、ハリー・アウスバッハのものに他ならなかった。お父様も、ここに捕らえられていたんだ……!


「ハリー、俺だ、解るか?」

「サークさんですか? あなたまでこんな所に……」

「一体お前に何があった? 解る範囲でいいから教えてくれ」


 サークの問いに、しばし、考えるような沈黙が下りる。やがてお父様が聞かせてくれたのは、こんな話だった。



 グランドラ政府に呼び出されて。お父様は護衛と共に、このサルトルートの官邸までやって来た。

 けれど通された応接室にいたのは見知らぬ女性。女性が赤い宝石のようなものを掲げると、突然護衛が魂が抜けたようになった。


『あら、入り婿だと聞いてたけど、あなたも抵抗出来るのね。まあ、手間は大して変わらないわ』


 戸惑うお父様に女性はそう言って、護衛にお父様を捕らえるよう命じた。すると何故か護衛は女性に従い、お父様を捕らえた。


『あなたには、エサになってもらうわ。『神の器(クリスタ)』候補達をおびき寄せる為の』


 そしてそれきり、ずっとこの地下牢に閉じ込められていたのだという。



「一体何だって言うんだ。アウスバッハ領は、メニ達はどうなったんだ。しかもクーナまでこんな事に……」


 話し終えると、お父様は憔悴(しょうすい)したようにまた黙ってしまう。そんなお父様を(なぐさ)めたい気持ちはあったけど……今の話、何だか違和感があった。


「ハリー、一つ確認させてくれ」


 サークも、同じ事を思ったらしい。厳しい表情で、再度お父様に問いかける。


「な、何でしょう……?」

「『神の器(クリスタ)』候補()……確かにそいつはそう言ったんだな?」

「は、はい、確かそんな事を……」


 お父様の肯定に、サークは何度もその言葉を反芻(はんすう)し始める。……普通に考えれば、私とサークの事に違いないけど……。

 でも、何でだろう。何だか、それだけじゃないような気がする。

 私達は、重大な何かを見落としている。さっきからずっと、そんな気がしてならない。


「……そういう事か!」

「!?」


 突然、サークが顔を歪めてそう叫ぶ。急な事に、私は思わずビクッとしてしまう。


「バカか、俺は! 何で今まで、こんな単純な事に気付かなかった!」

「サ、サーク……?」

「そうだ! 『神の器(クリスタ)』になり得る可能性のある奴は二人いた(・・・・)!」

「え、え?」

「いるだろうが! お前と、全く同じ血を分けた奴が!」

「……!」


 そこまで言われて、私もやっと気が付いた。そうだ。そうだったのだ。

 何で気付かなかったんだろう。私以外にも、『神の器(クリスタ)』は存在していたのだ。


 ――私の(・・)兄様が(・・・)


 アウローラは、私達だけを狙っていたんじゃない。兄様も同時に、おびき寄せる気でいたんだ……!


「……っ、サーク、兄様につけた精霊は!?」

「やられてる! 恐らくはもう……!」

「なら、早く助けに行かなくちゃ!」

「な……何だ? クーナ、お前達は一体何の話をしてるんだ……?」


 お父様が困惑の声を上げる間にも、サークが風の精霊を呼んで風の刃で縄を切る。二人とも自由を取り戻すと、私はお父様に向けて叫んだ。


「ごめんなさい、今は時間がないの!必ず、後で助けに来るから! ……『限界解放(リミットバースト)』!」


 唯一奪われなかった足輪の力で筋力を増幅し、牢の鍵を壊す。そして衛兵が駆け付けるより前に、外へと飛び出した。


「今の音は!? おい、クーナ!?」


 お父様の声に、振り返る事なく。私達は再び、執務室目指して駆け出したのだった。

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