第152話 首相を探して
目に付いた、手近な部屋に入り込む。
官邸内はまだ、騒ぎになってる様子はない。それを確認すると、私は深く息を吐いた。
「何とか、ここまでは無事に潜り込めたね……」
「ああ。そろそろカモフラージュを解くか」
そう言ってサークが、傍らの光の精霊を解放する。私達はこの光の精霊の力で姿を消し、ここまでやってきたのだ。
サークは短い時間なら、精霊を二体同時に使役する事が出来る。魔力消費が実質二倍になる分精神への負荷がものすごいらしいので、余程の事がない限りはやらないけど。
今回は兄様の身を守る為と潜入の目くらまし、その二つに使う為頼らざるを得なかった。兄様に何の守りもつけずにはいられなかったし、兄様が囮になってくれたとは言え、何の対策もなしに突っ込む訳にはいかなかったからだ。
「サーク……大丈夫?」
いつもより汗をかいたサークが心配になって、私はつい問いかける。それに対し、サークは予想通り事も無げに言った。
「この程度、どうって事ねえさ。今レオノが置かれてる状況に比べればな」
……サークがそう言う事は解ってた。解ってたのに、頼ってもらえない自分がもどかしい。
今はそんな事言ってる場合じゃないのも解ってるし、精霊を操れるのがサークだけだって事も解ってる。解ってるから――自分の無力さが、イヤになるんだ。
「ここから先は見つからないよう、慎重に進むぞ。レオノのおかげで大分手薄になったとは言え、警備の兵はまだまだいるからな」
「……うん」
内心を隠してうなずくと、サークは扉を少し開け、外の様子を窺った。そして何もないらしい事を確認し、部屋から出る。
続いて部屋を出ると、廊下は静まり返っていた。私達は足音を殺すようにして、廊下を歩き出す。
「まずはどこを目指すの?」
「執務室だな。首相がうまい事、そこにいればいいが」
首相が操られてるにしろそうでないにしろ、会っておく必要がある。そう言ったのはサークだ。
確かに会ってみないと、首相が操られてるだけなのか自主的に異神に協力してるのか解らない。それによって、対策を色々考えないといけない。
だから私達は、首相を探すのを優先する事にしたのだ。
大抵の場合、玉座だとか執務室は建物の奥まった方にある。だから私達が進むのも、自然と官邸の奥になる。
私達は中に残った衛兵達から身を隠しながら、官邸の奥へ奥へと進んでいった――。