第151話 官邸へ向かえ
地下水路を出て、三人で官邸に向かう。兄様の言葉通り、官邸の回りは住民や衛兵、様々な人でごった返していた。
「確かにマトモに突破するのは、ちいと無理そうだな……」
「私が可能な限り、彼らを引き付けます。伯父上達はその隙に官邸へ」
「ちょっと待て、レオノ」
出て行こうとする兄様を、サークが腕をつかんで引き留める。そして風の上位精霊を呼び出すと、兄様の側につけた。
「気休め程度にしかならないが、こいつにお前を守らせる。近付く奴らを弾いてくれるはずだ」
「ありがとうございます、伯父上。つつしんでお借りします」
兄様が小さく笑い、深く礼をする。同じ血を分けた兄妹なのに、私と違って兄様は生真面目だなと思う。
「それでは、行って参ります。伯父上、クーナを頼みます」
そう言って、兄様は物陰から飛び出していった。そして群れを為す、操られた人々と接触する。
それからまもなく、人々は一斉に兄様を追いかけ始めた。
「……っ」
今すぐ飛び出して兄様を助けに行きたいのを、懸命にこらえる。兄様は、私達の為にって囮になってくれた。それをムダにしちゃダメ……!
その時そっと、肩に手が置かれた。サークだ。サークがいたわるように、肩を抱いてくれている。
無言でサークを見返す。官邸の様子を見続けているサークの眉間には、小さなシワが寄っていた。
……サークだって耐えている。それなのに、私の心配までしてくれている。
そうよ、いい加減覚悟を決めなさい、クーナ。いつまでもウジウジしてたら、それこそ兄様に失礼じゃない!
「……ありがとう。もう大丈夫」
小さく笑みを浮かべて、サークにそう伝える。サークはチラッと私を見ると、軽くうなずいて言った。
「そうか。……そろそろ頃合いだな。行くぞ」
「うん!」
そうして私達は、手薄になった官邸目指して駆け出した。