第150話 潜入会議
「――現在の、このサルトルートの状況を説明します」
兄様に、私達がここにいる理由を簡単に説明し終わり。納得してくれたらしい兄様は、開口一番に言った。
「一見普通に見えるこのサルトルートですが、その実、厳戒体制の中にあります。官邸の警備は、通常の五倍ほどに。一般の民も、官邸に近付く者を特に警戒している節があります」
「じゃあ、官邸に何かある?」
「罠の可能性もあるが、探るとしたらそこだろうな。ハリーの馬は見つかったか?」
サークの問いに、兄様は、渋面を作りかぶりを振った。
「……いえ。確認出来る宿は総て探しましたが、どこにも」
「だとすれば、やはり捕らえられたか」
「父が洗脳されているとすれば、ここに留め置くよりもアウスバッハ領に送り返した方がより侵略がやりやすくなるはずですから。それは確かかと」
真剣な顔でうなずき合う、サークと兄様。兄様はやっぱり、私と違って頭がいいなあ……。
「なら、なおさら官邸を調べた方がいいのかな?」
「それに異論はないが、問題は方法だ。正面突破は、まず無理と考えていいだろうな」
「そうですね。……サルトルートの民の生死を考えないなら話は別でしょうが」
それはつまり、操られた人達と直接戦うという事だ。確かにそれなら正面突破もいけるかもしれないけど……やっぱり、その手段は取りたくない。
「どうしよう、サーク、兄様?」
「……方法は、ない訳じゃない」
どうすればいいか解らなくて二人を見た私に、兄様は優しく言った。それと対照的に、サークの顔は険しく曇る。
「レオノ……お前」
「やっぱり解りますか、伯父上。……今までは私一人だけだった。けれど今こうして、伯父上達が来てくれた。だから、突破口が出来たのです」
「え……? 待って兄様、まさか!」
イヤな予感がして、私は兄様の顔を見返す。兄様はどこか悟ったような表情で、静かに口を開いた。
「お前の思う通りだ、クーナ。……私が囮になり、二人の血路を開く」
「……! ダメ、そんなの! サークも何か言って!」
もちろん私は、即座に反論を口にする。けれどサークは、黙って兄様を見るだけだった。
「……覚悟の上で言ってるんだな?」
「サークっ!」
やがてサークが口にしたのはそんな言葉で。私は思わず、悲鳴のような声を上げてしまう。
「もちろんです。仮に私に何かあっても、アウスバッハにはまだクーナがいる。伯父上ならば、必ずやクーナを守ってくれるでしょう」
「エルといい信頼厚いね、俺は。ま、その信頼には必ず応えるがな」
「私はイヤだよ、兄様! 兄様も無事じゃなきゃっ……!」
なおも私は抗弁するけど、兄様は困ったように笑うだけだった。……解ってる。兄様が意志の強い人だって、妹の私が一番よく解ってる。
私が何を言ってもきっと意見を曲げないって、本当は解ってる。でも……!
「……一つだけ約束しろ、レオノ」
泣きそうになる私を尻目に、サークは厳しい顔のまま言った。
「本当に危ない時は、自分の身の安全を最優先にしろ。アウスバッハを救う為にお前が犠牲になっても、俺達も、誰も喜ばない」
「……はい。約束します、伯父上」
兄様はうなずいてくれたけど、それ以上、自分の意見を曲げる気はないようだった。サークもそれ以上は何も言わず、突入の段取りの話し合いとなったのだった。