第149話 再会、レオノ・アウスバッハ
路地裏を水の精霊の気配を追ってたどれば、地下水路の入り口はすぐに見つかった。
立ち入り禁止になってるとは言え機能自体はしてるようで、水は今でも流れていた。サルトルートの地下水路は迷宮のようになってると言うから、間違って迷い込む人が出ないように立ち入り禁止にしたんだろう。
「ん? ……錠前が壊されてるな」
先に立ち、封鎖された入り口を調べていたサークが訝しげにそう口にする。それはつまり、誰かがここから地下水路に侵入したという事だ。
「それってもしかして、兄様が……」
「可能性はあるな。……ますますこの先に向かう必要が出来た」
「キャロ達はどうしよう?」
「馬が往くには少し狭い。隠していくしかないだろうな」
サークの言葉に、傍らのキャロがまた不安そうに体を震わせる。そんなキャロの頭を、私は優しく撫でた。
「大丈夫。全部終わったら、必ず迎えに来るから」
「ブルル……」
「ゴメンな。お前達のご主人様は、俺が絶対に無事に返すから。少しの間、辛抱してくれよ」
サークと私で言い聞かせると、キャロはやっと静かになってくれた。サークの馬はと言えばさすがひいおばあちゃまが貸し出した馬だ、大人しく私達に従ってくれている。
私達は手持ちの荷物で精一杯キャロ達に偽装を施してから、地下水路に入っていったのだった。
ポータブルカンテラを手に、地下水路を進んでいく。
迷宮のようと評したサークの言に間違いはなく、無数に分岐し入り組んだ通路はまさしく迷路だ。もしここでサークとはぐれたら、自力で再会出来る自信が私にはない。
「確かに人間がこっちにいるんだな?」
道案内に呼び出した水の下位精霊にサークが問うと、精霊はこくこくとうなずく。……本当に、兄様はここにいるの……?
不安になりながら、なおも進んでいくと。
「……動くな」
突然背後から静かな声がして、背中に固く尖ったものが突き付けられる。っ、いつ背後に回り込んだの!?
「大人しくしろ。素直にこちらの質問に答えれば、危害は加えない」
声は尖ったものを更に押し付けながら、冷徹にそう問いかける。……でも待って。この声、何だか聞き覚えが……。
「そこまでだ、レオノ」
「!!」
そう思ってると、サークの呼びかけを聞いた背後の誰かがびくりと緊張するのが伝わった。じゃあやっぱり、背後にいるのは……!
「兄様……レオノ兄様なの!?」
「!? まさか、クーナ……!?」
声と共に、尖った感触がスッと消える。急いで私が、後ろを振り返ると――。
――探していた人が、アウスバッハ家嫡子レオノ・アウスバッハがそこにいた。