第148話 止まる事は許されない
「……何とか撒けたみてえだな」
人気のない路地裏に入り込み、しばらく走ったところでやっとサークが馬を止めた。私もそれに合わせ、キャロの足を止めさせる。
「どうどう……突然ごめんね、キャロ」
「ちょっと待ってろ。通りの様子を調べる」
そう言ってサークが風の下位精霊を呼び、偵察に出す。しばらくして戻ってきた精霊の報告を聞いたサークは、更に厳しい顔になった。
「……町中の人間が俺達を探してる。このサルトルートの住人全部が、敵と思っていいかもな」
「でも何の為にそんな事……」
「もしかすると、だが。……俺達はハメられたのかもな」
「ハメられたって……え?」
「忘れたか? 俺のこのアザを通じて、俺達の居場所はやつらに筒抜けだって事を」
サークが見せた、胸元のハート型のアザを見て思い出す。そうだ。確か以前戦った『四皇』の一人、バルザックも、これを使って私達を追ってきたんだった。
って事は……。
「まさか……アウスバッハ領が攻め込まれたのは……!」
「俺達をこのサルトルートにおびき寄せる為、だろうな」
告げられた推測に、がく然とする。私のせいで……みんなが危険な目にあった?
「……そんな顔をするな。お前は、何も悪くない」
そんな私の頭を、サークは優しく撫でた。
「やつらが求めてるのは、この世界を混乱させて混沌の力を強める事だ。俺達の事は、今のところついでの域を出ない。でなきゃとっくの昔に、全力でお前をさらいにきてるはずだ」
「でも……!」
「揺らぐな。揺らげばやつらの思うツボだ」
「……っ」
サークの言いたい事は解る。私が罪悪感に耐え切れなくなって自分の身を差し出したとして、待ってるものは、世界の破滅とそこに住む人達の死だ。
だから私は、抗い続けなきゃいけない。例えどんなに苦しくても……。
「俺達は、ただ俺達に出来る事をやるしかない」
真剣な表情で、サークが続ける。
「やつらの企みを見つけて、片っ端からつぶす。今は、そうするしかないんだ」
「……うん」
「その為にも、まずは、このサルトルートを元に戻してアウスバッハ領への侵攻を止めさせる。いいな?」
サークの言葉に、大きくうなずき返す。私には、立ち止まらずに進み続けるしか道はないんだ……!
「よし。そうと決まれば、まずはレオノを探そう。あいつにはお前と同じ血が流れてる。洗脳の類は効かないはずだ」
「でも、一体どこに……」
「あいつは腕も立つし頭もいい。恐らくはまだどこかに潜伏してると思うが……このサルトルートで潜伏出来そうな場所……」
アゴに手をやり、サークがしばし考え込む。そしてその姿勢のまま、小さく呟いた。
「地下水路……」
「え?」
「このサルトルートには、広大な地下水路がある。グランドラとレムリアの戦争の後、立ち入り禁止になったはずだが……あるいは……」
「……! 行ってみよう、サーク!」
私達はうなずき合い、地下水路の入り口目指して移動を開始した。