第147話 サルトルートの異変
首都サルトルートは、グランドラの経済の中心地だ。
グランドラの物資はまず一度、サルトルートへと集められる。そしてその後、各地方に輸送されるのだ。
その唯一の例外が、自治区であるアウスバッハ領なんだけど……。まあ、そこは今は置いとこう。
とにかく、そういう性質上、サルトルートは……。
「都会!」
およそ三年ぶりに目にしたサルトルートの街並みに、私は思わず声を上げていた。
洗練された街並みとは、こういうのを言うのだろう。キレイに舗装された道、オシャレな建物、整備された交通網。
正直に言う。今まで旅してきた国の中でも、トップクラスの都会だ。
離れてみないと故郷の良さは解らないとは、よく言ったものだと思う。もっとも私は、サルトルートの街を自分の足で歩いた事はほとんどなかったんだけど……。
「俺も首都の方にはほとんど来た事がなかったが、まさかここまで成長してるとはな」
「サークも来た事ないの?」
「……あまりいい思い出がないもんでな」
そう言うとサークは、少し複雑そうな顔をした。私はそんなサークに、何と言ったらいいか解らなくなる。
そういえばサークは昔、グランドラと隣国のレムリアの戦争を止める為にひいおじいちゃま達とサルトルートに乗り込んだって言ってた。もしかしたら、その時の事を思い出してるのかもしれない。
「……とりあえず、どうしよっか」
傍らを歩くキャロの鼻先を撫でながら、私は話題を変えた。するとサークはアゴに手をやり、しばし考え込む。
「そうだな……最初は官邸に直接乗り込む気でいたんだが」
「今は違うの?」
「ああ。……サルトルートの住民を見てたらな」
「?」
言われて、往来を歩く人達を見てみる。……確かによく見てみると、みんなどことなく生気がないような……。
「こうなった人間を、前にも見た事がある。……悪魔に操られた人間だ」
「!!」
「あいつらの作り出した立方体は魔物や人間を凶暴化させるだけじゃなく、人間に悪魔のような力も与えていた。もしかすると……」
じゃあ、このサルトルートにもあの立方体がある? そして誰かがそれを使って、アウスバッハ領を手に入れようとしている?
でもアウスバッハ領を手に入れたいなら、別にサルトルートの人達を操る必要はないはずだ。一体何で……。
「……クーナ」
私が考えていると、サークが急に真剣な顔になった。何かあったのかもしれないと、私もまた表情を引き締める。
「お前すぐにキャロに乗れるか?」
「う、うん」
「なら俺が合図したらすぐに乗れ。……すれ違った奴らが俺達についてきてる。一旦まくぞ」
「……! うん、解った」
私は後ろに気付かれないよう頷かずに了解の意を返すと、いつでもキャロに乗れるように手綱を握る力を強めた。緊張が伝わったのか、キャロが不安そうに体を震わす。
ごめんね、キャロ。でもあなたには絶対に、指一本触れさせないから!
サークが一歩前を行き、目の前の角を曲がる。私もそれについて、一緒に角を曲がった。
「今だ!」
直後に聞こえた合図に、私はヒラリとキャロに飛び乗る。そして同じく馬に乗ったサークと一緒に、前方に向けて駆け出した。
背後から響く、大勢の走る声。それを聞きながら、私の胸に不安がよぎった。
……一体このサルトルートで、何が起こってるの……?