第144話 変わり果てた地
街道を離れ、道無き道を進む。
方向はいつも通り、コンパスと知識と勘でサークが割り出してくれた。アウスバッハ領の中心――私の生家であるアウスバッハ邸を目指して、私達は一直線に進む。
(お父様、お母様、兄様、ひいおばあちゃま、皆……お願い、無事でいて……!)
それだけをただ祈りながら。私は、休む間も惜しんで足を動かし続けた。
「……酷い……」
目の前の光景に、私はただ呆然とする。一昼夜ひたすら駆け抜け、やっと辿り着いた領内は、すっかりと荒れ果てていた。
家は焼かれ、田畑は踏み荒らされ。収穫の時期が既に過ぎ去っていたのだけが幸いだろうか。
とにかく、そこに、見慣れた平和な風景はどこにもなかった。
「……気をしっかりもて、クーナ」
私の体をしっかりと支えながら、サークが言った。
「あの衛兵達は反乱は起こってる最中だと言った。ならまだ、最悪の事態には至ってねえ。足を止めず、早くハリーやエルと合流するんだ」
「……うん」
その言葉に、私は頷く。そうだ。今すべき事は、起こってしまった事を嘆く事じゃない。
これ以上の悲劇を防ぐ。その為に今は、とにかく行動しなければならない。
「貴様ら、そこで何をしている!」
「!!」
その時前方から、衛兵達がやってくるのが見えた。衛兵達は手に武器を携え、鎧を鳴らしながらこっちに向かってくる。
「数が多いな。倒す事も不可能じゃないが、アウスバッハ邸につくまでは無駄に体力を消耗したくない」
「解った。それじゃあ……『地の底から出で、総てを阻め、紅蓮の焔よ』!」
右手を前にかざし、詠唱を終えると、衛兵達の行く手を阻むように炎の壁が地面から噴き上がった。それに衛兵達が足を取られている間に、私達は急いでその場を離れる。
うるさいくらいに鳴り響く動悸は、ずっとずっと、止む事はなかった。