第143話 反乱
果たして、懸念は、現実のものとなった。
「止まれ!」
アウスバッハ領の一つ手前の町。そこで馬車は、武装した衛兵達に囲まれた。
「兵隊さん、何かあったんですか?」
御者さんが、戸惑った声でそう問いかける。それに対し、衛兵達は強い口調で答えた。
「反乱だ!」
「え?」
「この先のアウスバッハ自治領が、国に対し反乱を起こしたのだ。その為、この先の街道は封鎖された」
「……反乱……?」
心臓が、どくりと跳ね上がる。反乱。まさか。あの温厚なお父様が?
「それに伴い、外部との連絡を絶つ為、この町を訪れた者は皆持ち物を改めるようにとの上からの仰せである。悪いが、従ってもらおう」
「……っ」
そう言って、馬車の中に押し入ってくる衛兵達。私は混乱して、彼らに従うべきなのかも判断が付かない。
「……喋るなよ。舌噛むぞ」
その時不意に、傍らのサークが小さな声で呟いた。直後、私は勢い良くサークに抱き上げられる。
「ひゃっ!?」
「頼むぜ、風の精霊!」
サークが声を上げると、私達の背後から凄まじい突風が吹き荒れる。それは目の前の衛兵達を吹き飛ばし、同時に駆け出したサークの背を後押しした。
「ワリィな、あばよ!」
突風のもたらすスピードに乗り、サークは馬車の縁を足場にして高く跳躍。そのまま衛兵達の頭上を飛び越え、全速力で町から離れていった。
「……ハァッ、ここまで来りゃ大丈夫だろ……」
町から少し離れた林の中。そこに身を隠すようにして、やっとサークは足を止めた。
「いきなり悪かったな。あの場でもしお前がアウスバッハの人間だってバレたら、面倒な事になりそうだったんでな」
「う、うん、それはいいんだけど、その……」
「その?」
サークが心配そうに、私の顔を覗き込んでくる。私はそんなサークに、頬を熱くしながら言った。
「その……いつまで、こうしてるのかなって……」
「!!」
言われて、サークもやっと気付いたようだ。私の事を……ずっと、抱きかかえたままだという事に。
しかも、今の体勢はその、率直に言ってしまえばお姫様抱っこで。いや、初めてじゃないけど……初めてじゃないけどやっぱり恥ずかしいよー!
「……悪かった」
少しバツが悪そうな顔をして、サークは私を地面に下ろしてくれた。あー、ドキドキした……。
でも、ビックリしたおかげでちょっと冷静になれた。私は一度深呼吸をして心臓を鎮めてから、サークに向き直った。
「サーク、おかしいよ。お父様がグランドラに反逆なんて、する訳ない」
「ああ。ハリーは野心のない、温厚な男だ。だからこそクラウスも、メニとの結婚を許した」
そうだ、私の良く知るお父様は、絶対にこんな事をしたりしない。なら今、アウスバッハ領で、一体何が起こっているのか。
「行こうサーク、アウスバッハ領へ!」
「ああ。何があったのか、俺達の目で確かめるんだ」
サークと私はお互いを見て、どちらからともなく頷き合った。