第141話 懐かしき故郷
「もうすぐグランドラの国境だね」
乗合馬車に揺られながら、私はサークにそう言った。
「そうだな。どうだ、二年ぶりに故郷の土を踏む感想は?」
「何か実感が湧かないよ。二年もグランドラを離れてたなんて」
サークの問いに、正直に私は答える。だって、本当に実感がないのだ。
二年という長い間。ただの一度もグランドラに帰りたいとも、恋しいとも思わなかったなんて。
サークと過ごした二年は、いつも新鮮な出来事で溢れていて。感傷に浸るような暇なんて、一度もなくて。
ある意味で、薄情ではあるのかもしれない。でも、それだけ充実した月日だったのは確かなんだ。
「ハリーやメニ、レオノ達もきっと心配してるぞ。お前が便りの一つもよこさないから」
「だって旅の間にあった事は、全部私の口から伝えたかったんだもん!」
サークが口にした名前は、私のお父様やお母様や兄様……私の家族達。あともう一人、ひいおばあちゃまも一緒に住んでるんだけど……。
「ま、エルだけはいつものように、ドンと構えてるだろうな。アイツほど肝の据わった女はそうそういねえ」
……という訳だ。でもこれは決して、冷たいとかそういうんじゃない。
ひいおばあちゃまはきっと、私達が無事に帰ると信じてくれている。そして私達も、それを確信している。
それが解っているからこそ、こういう会話になるのだ。
「こんな形での帰郷になるとは思わなかったけど……皆元気だといいな」
目を閉じ、懐かしい皆の顔を思い浮かべながら、私は近づいていく故郷に思いを馳せた。