幕間 その6
「ハァ……今回は散々な目に遭った……」
一人の男が、重い足取りで自宅の扉を開く。それはクーナとサークを乗せた、あの乗合馬車の御者だった。
男の顔はすっかり憔悴し、この数日ですっかり老け込んでしまったようだった。霧の村での出来事は、生き残った全員の心に深い傷を残したのだと解る。
「……ハァ……」
また一つ大きな溜息を吐き、男は自宅へと足を踏み入れる。その、次の瞬間。
突然石になったかのように、男の動きが止まった。
ずるり。どこかで何かが這う音がする。
ずるり。男の目がぐるりとひっくり返り、白目を向く。
ずる、ずる、ずるり。大きく開かれた男の口から、何かが這い出す。
それは、人の腕ほどの大きさの蛇だった。蛇が完全に体内から這い出ると、男の体はその場に崩れ落ち、二度と動き出す事はなかった。
「なかなか面白い見世物だったわよ」
いつの間にか、家の中に女がいた。布地の少ない真紅のドレスで己を飾ったその女は、男から這い出た蛇をその身に纏わせる。
「霧のせいで、途中まで視界が悪かったのは残念だけど……まぁいいわ。肝心の絶望は見れたもの」
心底楽しそうに言いながら、女は紅い唇を弧に歪めた。その笑みは妖艶で、蠱惑的で――そして、どこまでも冷たかった。
「さぁ、そろそろ私が相手をしてあげようかしら。対決に相応しい舞台を整えて……ね」
その呟きと共に、女の体はすうっと闇に溶けた。