閑話 その13
心地良い温もりを全身に感じながら、目を覚ます。
頭の奥が酷く重い。二日酔いとは違う。どちらかと言えば、疲れ果てて丸一日潰れた後の目覚めによく似ていた。
働きの鈍い思考を巡らせ、ゆうべ何があったのかを思い出そうとする。その最中、起き上がろうと動かした手が何か柔らかいものに触れた。
「ん? 何だ……?」
訝しく思い、手の先に目を遣る。そこに見えたのは――手の中にすっぽりと収まる、ささやかな胸の膨らみ。
「――っ!?」
そこで、意識が一気に覚醒した。慌てて跳ね起き眼下を見下ろせば、視界に映るのは、穏やかな寝息を立てる愛しの少女。
「な、なっ……何でクーナと俺が、一緒のベッドに……」
焦りと共に、昨日の記憶が脳内に一気に押し寄せる。ああ、ああ。そうだ、そうだった、俺は……。
「……テメェの不始末をクーナに八つ当たりして、挙句に襲いかかって……最低じゃねえか、俺……」
自分のしでかした事の情けなさに、自然と顔が歪む。保護者としてどころじゃない、こんなのは――人として失格だ。
防げたはずなんだ。防げたはずだったんだ。俺が、もっとしっかりしてりゃ。
やりようはいくらでもあった。いきなり時間の流れを正常に戻さずに、町に使いの者を出す間だけ時間を進めて、後は医者が来るまでもう一度時を止めるとかでも良かった。
どんな時でも、俺だけは、冷静でいなけりゃならなかった。それなのに……。
「……ん……」
俺が再び自分を責め始めたその時、目の前のクーナが小さく身じろぎした。それに慌てた俺は、急いでクーナから離れようとするが。
「っ……!」
まるでそれを引き止めようとするように、クーナが俺に手を伸ばす。そして自分の胸元に、しっかりと俺を抱き込んでしまった。
「お、オイ……!」
「……だいじょうぶ……」
ますます焦る俺に、眠ったままクーナは呟く。
「だいじょうぶ……わたしがいるよ……サーク……」
「……っ」
何故だろうか。その言葉が、澄んだ水のように心に染み渡ったのは。
俺一人で、頑張る必要はないのだと。優しい声が、そう言っているように思えて。
瞳の奥に、じわりと熱いものが滲んだ。昨日、あれだけ泣いた後だと言うのに。
「……ハハ。本当に敵わねえなあ、お前には……」
一緒にいればいるほどに。俺の心に、深く入り込んでくるお前。
俺の精一杯の強がりを、総て溶かして。頼ってもいいのだと、甘えてもいいのだとそう思わせてくれる。
おかしな話だよな。相手は、俺の十分の一くらいしか生きてないガキなんだぜ?
「でも……今は、そんなお前に甘えたいみたいだ」
クーナに抱き締められるに任せて、全身の力を抜く。腕から、胸から伝わるクーナの体の熱に、酷く安心する。
後悔も反省も、決してこの心から消えてなくなる事はない。それでも――それでも。
――お前が赦してくれるのならば、今だけは。
そんな思いを胸に。俺は、そっとクーナを抱き返した。