第138話 悪夢の終わり
――結論から言ってしまえば。今この村で病に冒されていないのは、私とサーク、そして御者さんの三人だけだった。
村の人達はほぼ全員手遅れ。旅人達も、長く村に滞在していた人ほど病状が深く進行していた。
霧は確かに晴れていた。村から出られるようにもなっていた。でも、これじゃあ――。
「……お前らのせいだ」
あの眼帯の男の人は、体の下半分をすっかり腐らせながら私にそう言った。
「お前らの言う事さえ聞かなけりゃ、こんな目に合わずに済んだんだ。許さねえ。絶対に死んでも恨んでやる……!」
「……」
私はそれに、何も言い返せなかった。だって、何もかも言う通りだ。
きっともっと、上手い方法があったはずだった。誰も傷付かない事は無理でも、こんなにもたくさんの人を犠牲にしないで済む方法が、きっとあったはずだった。
私達は、それを選び取れなかった。だから、これは――紛れもなく、私達の罪なのだ。
「……御者さん。急いで町へ戻って、お医者様を連れてきて下さい」
村を巡るのについてきてくれていた御者さんにそう言うと、御者さんは不安げな目で私を見た。
「で、ですが……この様子じゃ何人が助かるか……だったらお客さん達を乗せて、さっさと安全なところに避難した方が……」
「例え一人でも、助けられる人がいるなら助けたいんです。……お金は全額、私が出します。どうかお願いします」
「わっ、あ、頭を上げて下せえよ。……解りやした。他の奴らにはどうでも、お客さん方はあっしにとっちゃ、間違いなく命の恩人だ。あっしも、出来る限りの事をさせてもらいやす」
深々と頭を下げて、もう一度お願いする。すると御者さんは覚悟を決めたように、そう言ってくれた。
「……ありがとうございます」
私は、感謝を込めて、もう一度御者さんに深く深く頭を下げた。
それから、御者さんがお医者さんを連れてきてくれたけれど、結局は殆ど手遅れだった。
助かったのはほんの二、三人。いずれも村に閉じ込められて、比較的日が浅い人達だった。
病原菌のこれ以上の蔓延を防ぐ為、死体はまとめて焼く事になった。人が焼けていく嫌な嫌な臭いが鼻の奥にすっかりこびり付いて、一旦町に戻るまでの間、ずっと消える事はなかった。
――こうして、私達の悪夢は、やっとの事で終わりを告げた。