第136話 悲しき戦い
「ギャオオッ!」
リザードマンが長い尻尾を振り回し、私達二人を薙ぎ倒そうとする。私達はすぐに後ろに飛び、その一撃をかわす。
ドガアッ!!
巻き込まれた家具が壁まで吹き飛んで、派手に壊れる。それを横目に、私はリザードマンを取り押さえるべく距離を詰めようとする。
けれど――。
「キャッ!」
一歩足を踏み出したところで尻尾の襲撃を受けて、私は再び後ろに下がらざるを得なくなる。軌道はデタラメだけどとにかくリーチがあるその尻尾は、相手に一歩近づく事すら困難にさせていた。
「チッ……この狭さじゃ、派手に魔法をブッ放せば家ごと吹き飛ばしちまう」
「でも止めなきゃ!」
「ああ。……クーナ、アイツの尻尾を引きつけられるか?」
サークが尻尾の動きに注意しながら、私の方をチラリと見る。私は今のサークに従っていいのか迷いながらも、コクリと小さく頷いた。
「よし。俺が隙を見て、あの尻尾をぶった切る。お前はそれまで、アイツの注意を自分に向けるんだ」
「……解った」
「くれぐれも当たるなよ。骨の一、二本は持ってかれるぞ」
「うん!」
最後のいつも通りの心配に少しホッとしつつ、再び私はリザードマンに向かっていく。今度はかわす時もなるべく距離を開けないように注意して、左右にステップを踏む感じで攻撃を誘っていく。
時折尻尾の起こす風圧が髪を凪いで、私はヒヤリと冷や汗を掻く。これが直撃したらどうなるのかなんて、考えたくもない。
タイミングを見計らっているのか、サークはまだ動き出す気配がない。一体いつまでかわし続ければいいのかと、少し焦り始めてきたその時。
「!?」
かわしたと思った尻尾が、ぐにゃりと弧を描いた。そして私が床に両足を着いたそのタイミングで、私の左足を尻尾の先で器用に絡め取る。
「しまっ……!」
尻尾に捕らわれた足を引っ張られ、私は床に派手に体を打ち付けてしまう。鈍い痛みをマトモに感じる間も無くズルズルと床を引きずられ、遂には逆さまに体を持ち上げられてしまった。
この後どうなるか、嫌でも予想がつく。私はやってくる衝撃に備え、グッと歯を食い縛って身構えた。
その直後。
「させるかあっ!!」
眼下に、サークが尻尾の根元に曲刀を大きく振り下ろす姿が見える。途端、尻尾に吊されていた体が尻尾ごと大きく揺れた。
「ギェエエエエエエエエッ!!」
「ぐうっ!!」
リザードマンの悲鳴を聞きながら、尻尾の下敷きになる形で、私は激しく床に衝突する。きっと叩き付けられるよりはマシだったんだろうけど、それでも全身が激しく痛んだ。
「悪いな。殺らせてもらう!」
尻尾を失い無防備になった体に、サークが赤い血に濡れた曲刀を振りかざす。そして――。
一息に、その首を体から切り飛ばした。