第132話 無情な推理
「……でも、サーク」
二人一組で、それぞれの家を見張る事になって。当然サークと組む事になった私は、二人きりになったところで口を開いた。
「何だよ」
「この霧で、気付かれないような見張りなんて本当に出来るの? 村の人達に気付かれちゃうんじゃ……」
「まぁ、十中八九気付かれるだろうな」
「えっ……」
大声を出しかけて、慌てて口を塞ぐ。だ、だって、気付かれたら見張りの意味がないんじゃないの!?
「何でそんな事をするのか、って言いたそうな面だな」
「そ、そりゃそうだよ! 約束破って、大勢まで巻き込んで、無駄な事をするなんてサークらしくないよ!」
「無駄じゃないさ。これは、『俺達が何かしている』と犯人に知らせる事が目的だからな」
事も無げに言ったサークに、私はますます訳が解らなくなる。どうしてサークは、こっちの動きをわざわざ相手に教えるような事をするの?
「クーナ、今犯人が一番避けたいと思ってる事は何だと思う」
私が混乱していると、更にサークが言った。
「……自分が犯人だとバレる事……?」
「まぁそれは当然思ってるだろうな。だがそれ以上に不味い事がある。……迷い込んできた旅人達が、暴動を起こす事だ」
「あっ……」
言われて、確かにと納得する。犯人からしてみれば、自分が犯人だと知られるよりも、村そのものをどうにかされる方がずっと可能性が高いはずだ。
そして、犯人が村の滅びを願っている訳ではないのは、旅人達が伝染病の事を知らなかった事から読み取れる。村を滅ぼしたいなら、旅人達に伝染病の存在を教えれば、きっと自然と暴動が起きていたからだ。
「旅人達が不審な動きを見せ始めたとなれば、当然犯人は伝染病の情報が外に漏れた事を疑うはずだ。対処の為に、何かしらの動きを見せる可能性が高いだろうな」
サークの推理は、理に適っている。この状況を打破するには、それが一番効果的だろう事は私にも解る。
でも……。
「その為に……旅人の皆を、囮にしたの?」
「……そうだ」
私の指摘を、サークは眉一つ動かさずに肯定する。その表情からは、何の感情も読み取れなかった。
「素直に本当の狙いを言えば、自分の身が一番可愛い奴ばかりが集まったアイツらだ、素直に協力なんてしないだろうさ。だからアイツらには、こっちの提案がリスクが一番少ないと思わせる必要があった」
「そんな……」
告げられた言葉に、思わず唇を噛む。サークの理屈は解る。確かに、痛いほど解るのだ。
でも、人の心を弄んで、操って。こんなの――。
(……こんなの、異神側がやってる事とどう違うの……?)
綺麗事だけじゃ、誰も救えない。それは、十分に解ってるつもりでいた。
でも、サークがやろうとしてる事に、心から納得が出来ない。何とかして止められたら、そう思ってしまう自分がいる。
これは私が甘いせい? それとも……。
「無駄口は終わりだ。さぁ、中の様子を見つつ御者の知らせを待つぞ」
「……」
私は、サークに何も言葉を返せなかった。