第130話 焦り
私達は改めて、村人さん達への聞き込みを開始した。
伝染病の事は知っている、その上で力になりたいと言うと、他の旅人達には伝染病の事を漏らさない事を条件に皆口を開いてくれた。聞けば伝染病が広がる少し前、行商人の女性がこの村を訪れたらしい。
私は思い出す。前の事件を起こした人形師の日記、そこにも女性と会ったと書かれていた。
ビビアン……ではないと思う。ビビアンは私と歳がそう変わらないように見えたから、呼ぶなら女性じゃなく少女だと思う。
そういえば、『四皇』と呼ぶくらいだから敵の幹部は恐らく四人。その一員だと今解っているのがノア、バルザック、グレンの三人。
もしかしてその女性は、最後の『四皇』なんじゃ? これまでの『四皇』はノア以外自ら動いていたし、そのノアもビビアン以外の部下を使っていた様子がない。可能性は、十分にあると思った。
そして、その女性が無差別にあの立方体をばらまいている……私には、そう思えた。
「……村人の誰かが、女行商人から例の立方体を買った可能性が高いな」
私と同じ事を考えたんだろう。サークが、そうポツリと呟いた。
「うん。私もそう思う」
「とは言え、この事態はそいつが望んで引き起こしてる。素直にそれを買いましたなんて、言う筈もないだろうな」
「……うん……」
サークの言う通りだ。このままじゃ、この事態を引き起こした犯人は見つけられない。
村の人達一人一人の動向を探ろうにも、この霧だ。外から家の中を探るのも難しい。
「あ、あの……お客さん方は何の話をしてるんでやすかね……」
話し込む私達に、御者さんが所在無さげに言う。……そういえば、ずっと私達についてきてたんだっけ。
「あ、ごめんなさい。ええっと……」
「率直に言うと、村人の中にこの事態を引き起こした奴がいる。俺達は、それを突き止めたい」
「えっ……」
けれど包み隠さず言うサークに、私は少し驚いてしまう。いつものサークなら、もっと上手い感じに無関係な人を関わらせるのを避ける筈なのに……。
いつもと違うサークに、私の胸に不安が広がる。何だろう。少し良くない予感がする……。
「……まぁ、あっしもこんなところであんな病気にかかって死にたくねえですから……なら協力しますけど」
「悪いな。助かる」
「村人達を調べたいんですよね? それなら、やっぱり……人海戦術しかないんじゃねえですかね?」
「人海戦術……って」
御者さんの意見を聞いて、私は思わず顔をしかめてしまう。村人さん達の誰かがこの事件を起こしている事を皆に説明するなら、きっと、伝染病の事も言わなければならなくなる。
それは、村人さん達との約束を破るという事だ。当然、私は反論しようとしたけど……。
「……ああ。それしかないだろうな」
その前に、サークが御者さんの意見を肯定した。私は驚いて、サークを振り返ってしまう。
「サーク、それじゃ!」
「今は事態を収拾するのが最優先だ。手段を選んでる場合じゃない」
「でも!」
「……なら他に、適切な手段があるとでも?」
「……っ」
冷たく言い放つサークに、私は何も言い返す事が出来ない。村の人達との約束を破らずこの事態を解決する方法を、私に思いつけるはずもなかった。
でも……でも。こんなの、納得出来ないよ……。
「行くぞ。事は一刻を争う」
そう言って無情にも歩き出すサークに、私は、何も声をかける事が出来なかった。