第129話 今出来る事を
男の子の家を出てから、サークは一言も口を開かない。
私はそんなサークに、何の声もかけられなくて。自分の無力さに、胸は痛くなるばかりだった。
村の人達が旅人によそよそしかった理由は、村を襲う伝染病のせいだった。
それはかつて、サークの故郷を襲ったのと同じもの。生きながら体中が腐っていき、やがて、死に至る。
この病が村を襲ったのは、霧が現れる少し前。治療しようにも病院がある一番近い町までは片道だけでも数日かかり、困り果てていたところに、追い打ちのようにこの霧が現れたらしい。
成る程、私達に隠したかった訳である。伝染病の蔓延している村に閉じ込められたなんて知ったら、人によっては、どんな行動に出るか解らない。
サークはかつて故郷でエドワードさんの手伝いをした事があるから、治療に必要な薬草の種類とその調合方法は知っていた。でもそれは、本職のお医者様でもなければ普通は持ち歩かないようなものばかりだった。
……救える方法を知りながら、何も出来ない。それも、かつて自分の人生をメチャクチャにした病に対して。
それは、サークにとって、どんなに辛い事だろう……。
「……一刻も早く、この霧を晴らすぞ、クーナ」
やがて。静かな声で、サークがポツリと言った。
「サーク……」
「この霧を晴らし、大急ぎで医者を連れてくる。それしかこの村を救う方法はない」
サークの拳が、固く握り締められる。まるで、それしか出来ない自分の無力感に憤るように。
「発生源は絶対に、この村の中にある。徹底的に探すぞ!」
「……うん!」
私はそんなサークに、力強く頷いて応えた。