第125話 濃霧の誘い
派遣されてきたギルド員に村の事を任せ、エリスさん達と別れた私達は、レムリアへの旅路を少し急ぐ事に決めた。
エリスさん達は私達についてきたがったけど、サークが止めた。エリスさん達の力量ではこの先足手まといになるというのが、サークの告げた理由だった。
確かに、それも本音ではあるんだろう。けど二人を同行させなかった本当の理由は、きっと今では唯一家族と呼べる二人を、必要以上の危険に晒したくなかったからだと私は思う。
サークのそんな思いが伝わったんだろうか。二人はそれ以上食い下がる事はなく、「必要な時にはいつでも力になる」とだけ言い残した。
それと、ベルにもレムリアでまた一度合流するべく手紙を出した。ムンゾでの怪我も、そろそろ癒えている頃合いのはずだ。
「馬車……人、少ないね」
国境へと向かう乗合馬車の中を見回し、私はつい呟いてしまう。普段なら国境を越える人で賑わっているはずの馬車の中は、今はひどく閑散としていた。
「仕方無いさ。街道にも魔物がうじゃうじゃ沸くようになっちまったからな。俺達だって、馬車が襲われたら御者や馬を守るって条件で乗せてもらってるんだ」
「うん……」
西大陸にいた時の、商隊の人達との賑やかな国境越えを思い出す。あれからまだ半年くらいしか経ってないはずなのに……何だかもう、遠い昔の事のようだ。
と、突然馬車が緩やかに速度を落とし始めた。国境まではまだまだあるはずなのに、どうしたんだろう?
「どうした?」
「いや、急に霧が出てきたんでさぁ」
御者さんに言われて外を覗き見ると、確かに外は霧に覆われていた。それもこの短い時間に出たにしては、随分と濃い霧だ。
「本当だ。これじゃ辺りの様子がよく解らないよ」
「夜になってもこのままだったら、今夜は野宿しかねえですよ」
「……」
御者さんと顔を見合わせ困っていると、サークが腕組みし何かを考え始めた。やがて腕組みを解くと、サークは御者さんの方を振り返った。
「確かここの街道を北に逸れた辺りに、村があったと思う。確認してみてくれないか?」
「えっ? あ、ハイ。ちょっと待ってて下せえ」
言われた通り、御者さんは手持ちの地図を確認する。そしてすぐに、サークを見返し頷いた。
「へえ、確かにあります!」
「今夜はそこで宿を借りたらどうだろう。このまま進むのは、確かに危険がつきまとうからな」
「そうですね、そうしやしょう!」
そう言って御者さんは、馬車の向きを変え、街道を外れて進ませ始めた。