第123話 償うという事
それから、何とか合流した私とサークは、疲れを押して遺跡の中で眠る村人達を外へと運び出した。
村人達は随分衰弱していたけど、何とかまだ生きていた。私達は二人がかりで、何とか皆を起こしたけど……。
「あ……ああ……あああ……」
「にんぎょう……おまえたちも……にんぎょうになれ……」
「ヒヒ……イヒヒ……」
……魂に混沌を混ぜられたせいか、それとも人形になっていた期間が長すぎたせいか。正気を保っている人は、ほとんど存在しなかった。
かろうじて正気のままの人も、自力では腕も上げられない状態で。ギルドの救援が来るまで、誰かが残って村人達の介護をしなければならなかった。
「……俺がギルドに報告に行く。クーナ、エリス、俺が戻るまで皆を頼む」
結局サークがそう言って、一人でギルドに向かう事になった。私とエリスさんはサークが戻るまでの間、介護に駆けずり回る事になったのだった。
「……また何も出来なかったな、俺は」
空いたベッドに寝かされていたヒューイさんが、ポツリと呟いた。人形達は元々人間を殺すようには命令されていなかったのか、何カ所か骨折してはいたものの、ヒューイさんの命に別状はなかった。
「……今回は、私達が来た時にはもう遅すぎたの。あなたに責任はないわ」
「けど、姉さん……」
「……それと、お願いだから死に急がないで。あなたを死なせない為に、私はここにいるのよ」
「……」
少し怒ったようなエリスさんの言葉に、ヒューイさんはうつむいたまま何も言葉を返さない。私はそんなヒューイさんを放って置けなくて、思わず口を開いていた。
「ヒューイさん、償いって、その人のために死ぬ事じゃないって私は思う」
「……クーナ」
「償いのためだけの人生なんて良くないだとか、たったの十六年ぽっちしか生きてない私にそんな偉そうな事言えない。でも、これだけは言える。死ぬ事は償いにならないって」
「……」
「どんなに苦しくても、生きて何かをし続ける事。……それこそが償いなんじゃないかって、私は思う」
言い切って、私は真っ直ぐにヒューイさんの目を見る。ヒューイさんはそんな私の目を見返して――不意に、眩しげに目を細めた。
「……お前はどこか、エドワードに似ているな」
「私が?」
「決して理由なく頭ごなしに他人を否定せず、それでいて諭すべきところは優しく諭す。……そういうところが、似ている」
そ、そんな風に言われると少し照れちゃうな……。きっとエドワードさんは、私よりずっとずっと頭のいい人だと思うのに……。
「そうか。……サークがお前を側に置く理由が、解った気がした」
「そ、そう……?」
「ありがとう。エドワードに似ているお前にそう言ってもらえて、少しだけ気が楽になった。気持ちを完全に切り替えるには、まだ少し時間がかかると思うが……」
「……うん」
微笑んでくれたヒューイさんに、私も小さく微笑み返す。従弟というだけあって、笑うと何となく、サークに似ている気がした。
「きっと今回の怪我は、いつも無理してばかりのあなたにたまにはゆっくり休みなさいって、今は亡き大精霊様が仰っての事なのよ。村の事は私とクーナちゃんに任せて、あなたはこの機会にゆっくり休みなさい」
「……そうだな、姉さん」
「よぉし! 頑張ろう、エリスさん!」
私は気合いを入れ直すと、エリスさんにそう声をかけた。