第122話 狂気の潰える時
「はあっ!」
私は燃え盛る右の拳を、人形師に向けて素早く突き出した。対する人形師は、私の拳を真っ向から掌で受け止める。
「!?」
そして直後に、燃え始めた腕をもう片方の腕で肘からへし折り、その腕を力任せに振り回してきた!
「くっ!」
咄嗟に後ろに跳んで距離を取って攻撃をかわし、直後に回し蹴りを放って燃える腕を叩き落とす。燃え尽きるまでは戻せないという事なのか、落ちた腕が今までのようにすぐに再生する事はない。
なら、目はある。村では建物に燃え移らないように控えてたけど、ここは相手をとことん燃やし尽くして動きを止める!
「やああああっ!!」
私は再び人形師のふところに踏み込むと、もう一度拳を振りかぶった。けど私が拳を突き出すより早く、人形師が全速力で体当たりを仕掛けてきた!
「キャッ!!」
すっかり攻撃態勢に移っていた私は、その一撃を避ける事が出来なかった。全身を激しい衝撃が襲い、私の体は後方へと吹き飛ばされてしまう。
「うぐっ!」
更に倒れた私の上に、人形師がのしかかってきた。木で出来た人形とは思えない重みに、思わず背筋がゾッとなる。
人形師はそのまま、私の首を強い力で締め上げてくる。呼吸の術を奪われ、口が力無くパクパクと動いた。
「ぁ、ぐ……!」
「……どうやらお前は、生かしておくには少し危ない。残念だが、ここで死んで貰うとしよう」
言いながら、首にかかる手に更に力がこもる。首の骨が軋む。意識が遠のいていく……。
「――ッッッ!!」
けれど意識を手放しかけたその時。人形師の体がビクン、と大きく跳ねた。
「ガ……ァ……オノレモウ一人カ……オノレ……オノレエエエエエッ!!」
不鮮明な声で、私から手を離してもがきだす人形師。急激に肺を満たした冷たい空気に咳き込みながら、それでも私は、何が起きたのかを察した。
サークだ。サークが本体を見つけて、その命を絶ったんだ……!
「タダデハ……死ナン……」
苦しげに首をもたげ、人形師が私を見る。その作り物の目に、強い狂気の光が宿った気がした。
「オ前も……道連レ……ダアアアアアッ!!」
狂ったように叫びながら、人形師が再び私に躍りかかる。けどそれよりも、私が詠唱を終える方が早かった。
「『燃え盛れ地獄の炎、我が腕に宿り、総てのものを灰塵と帰せ』!」
拳に炎が再び灯るのを確認するより早く、私は向かってくる人形師に拳を繰り出す。それは狙い違わず人形師の顔面に吸い込まれていき――。
――人形師は、全身を炎に包まれながら吹き飛んでいった。