第121話 冷気では消せぬ意志
人形師が表の人形達とは違う、確かな足取りで私に向かってくる。私はそれを迎撃するべく、右の拳を真っ直ぐに突き出す。
――バキィッ!
防御の姿勢を取る事もしない人形師の顔面に、私の拳が深くめり込む。けれど。
「……!」
人形師は壊れた顔なんて物ともしないように、そのまま私のお腹にボディーブローを叩き込んだ。
「かはっ!」
「あの馬鹿!」
咄嗟にお腹に力を入れたけど、力任せの一撃は私に確かなダメージを与える。思わずふらつく私の元に、すぐにサークが駆けつけてきた。
「おらっ!」
サークがすかさず、横合いから人形師の脇腹に強烈な蹴りを入れる。人形師の軽い体は、その衝撃に耐え切れず呆気無く吹き飛んだ。
「げほっ……ありがとう、サーク……」
「こいつは意思があるが、体は表の人形共と一緒だ! ちょっと壊れたぐらいじゃ、すぐに復活するぞ!」
「うん……でも、じゃあどうやって……」
「元の肉体が死ねば、魂も死ぬ。さっきアイツはそう言ってたな。……ざっとこの部屋を見回したが、寝かされてる中にアイツと同じ顔はなかった」
「って事は……」
「アイツ自身の体は、どこか別の場所にある。探すぞ!」
言うなり、人形師が態勢を立て直す前にサークは駆け出した。それに少し遅れて、私もサークの後を追う。
全くの無防備な本体を手にかけるのに、抵抗がないと言えば嘘になる。けど村人達の事を思えば、躊躇ってなんかいられない!
部屋を飛び出し、遺跡の内部を進む。背後からはガチャガチャと、人形師が追いかけてくる音がした。
とりあえず手当たり次第に部屋らしき空間を覗いてみるけど、どこにも人影は見当たらない。あまり長くこの遺跡にいると、私達の体力ももたない……!
「チッ……やむを得ねえ。二手に分かれるぞ!」
「うん!」
これ以上時間はかけられない。そう判断した私達は、危険な事は承知でお互い逆方向に散った。
足はどんどん重くなり、走る速度も次第に落ちていく。それでも私は、足を止める訳にはいかなかった。
「見つけた……!」
「!!」
その時声と共に、後頭部に激しい衝撃と痛みが走る。明滅する意識と共に私の足がもつれ、その場に派手に倒れ込んでしまう。
「ぐ……」
「あまり手間をかけさせないでくれ。疲れを知らないこの身でも、面倒という感情はある」
痛みと目眩をこらえて背後に目を向けると、こっちに近付いてくる人形師の左腕が再生を始めてるのが見えた。アイツ……自分の腕を自分でへし折って、こっちに投げ付けたんだ!
「鬼ごっこは終わりだ。ゆっくりと眠れ、次に目覚めた時が新たな生の始まりだ」
「……こんなところで、眠って、たまるもんですか……!」
グラグラする頭を押さえながら、私は何とか立ち上がった。頭をやられた事と寒さで足には上手く力が入らず、いつものような動きは出来ないだろうと予測出来る。
それでも――サークが本体を見つけるまで、全力で抗ってみせるんだから!
「……まだ抵抗するのか。何故そこまでして、肉の体にこだわる」
「あなたには……きっと解んないよ……! 『燃え盛れ地獄の炎、我が腕に宿り、総てのものを灰塵に帰せ』!!」
私の叫びに応えて、右腕が燃える。私はその炎が消えないよう必死に調整しながら、人形師を強く睨み付けた。