表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星空の小夜曲~恋と未来と、少女の決意~  作者: 由希
第2章 中央大陸編
140/188

第120話 新しい人間

「テメェが、この村に引っ越してきたっていう人形師か」


 現れたローブの人物に、サークが厳しい視線を向ける。ローブの人物はそれには応えずに、淡々と言いたい事を告げた。


「出て行ってくれ。それとも君達も、私の隣人になってくれるのか?」

「これは……あなたがやったの? あなたがこの村の人達に、こんな酷い事をしたの?」

「酷い事とは心外だ。これは純粋に、彼らの為にした事だ」


 私の追及に、ローブの人物は心底意外だと言う風に首を横に振った。全く悪気のないその姿に、私は怒りより先に強い戸惑いを覚えた。


「あなた……何を言ってるの?」

「彼らは生まれ変わったのだ。痛みも苦しみも感じる事のない、永遠の刻を生きる存在へと」

「まさか……表の人形共の事を言ってやがるのか?」

「あれは人形ではない。私が造り上げた新しい形の人間だ」


 淡々と、感情の読めない声で告げるローブの人物に、気温だけでない寒気を感じて私は震えた。……この人が、何を言っているのか解らない。

 話の歯車が噛み合っていない、そんな感じが強くする。この人は――何か根本的なところが、私達とは全く違う。


「あれが人間だと?」

「そうだ。古い体から魂を摘出し、あの新しい体に移し替えた。……これを使ってな」


 そう言ってローブの人物が取り出したものに、思わず目を見張った。あれは……前にフレデリカで、ビビアンが作ってた赤い立方体!


「これは素晴らしいな。この力を魂に少し混ぜてやれば、肉体は無限の再生を繰り返すようになる。それに加え、あの新しい肉体なら老いて朽ちる事も、病に苦しむ事もなくなる」

「テメェ……それが何なのか解って言ってやがるのか!」

「混沌と魔力を混ぜ合わせ、極限まで凝縮したもの、だろう?」

「そうだ。そんなものを魂に混ぜたらどうなるか……!」

「永遠の生が手に入るなら、安い代償だろう?」


 首を傾げ、やっぱり淡々と告げるローブの人物。その、こちらを嘲る風でなく、本当にそれが正しいと信じて疑っていない様子が――何よりも恐ろしかった。


「ただ一つ、問題があってな」


 と、ローブの人物が深い溜息を吐いた。


「繋がりが残っているのか、古い肉体が死んでしまうと、魂もまた死を迎えてしまう。そこで肉体の保存に適したこの遺跡に近いあの村へと移り住み、問題解決までの間、古い肉体を置いておく事にした訳だ」

「……もし問題が解決すれば?」

「知れた事。世界中の人間を生まれ変わらせる為に、動き出すだけだ」

「なら……尚更、ここでテメェを止めねえとな!」


 曲刀を抜き、サークが吼える。私も、サークと同じ気持ちだった。

 この人は危険だ。多分、今まで会った誰よりも。絶対に、ここで止めなきゃならない――!


「……残念だ。私の理想を解って貰えないとは」


 私達が戦闘態勢に入るのを見て、ローブの人物が纏っていたローブを脱ぎ捨てる。その姿は――村人達と同じ、人形のものだった。


「テメェ、既に自分の体を……!」

「ならば、少しばかり痛めつけさせて貰おう。新たな隣人へと生まれ変わる為に……」

「私達は、人形になんかならない。――絶対に!」


 会話の間にも奪われつつある体力を奮い立たせ、私達は人形師自身の人形と対峙した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ