第119話 零下の遺跡
二人で、無言で、横穴の中を進んでいく。
ヒューイさんは、まだ生きているだろうか。もう何度目かになる心の問いを、私は必死に振り払う。
今引き返せば、まだ間に合うかもしれない。ヒューイさんを助けられるかもしれない。
でもそれではこの事態も、そしてサーク達皆が心の内に抱えるものも、何一つとして解決はしないのだ。
「……明かりだ」
呟いたサークの声に、私も前方に注目する。すると横穴の奥の方に強い明かりが輝くのが見えた。
「洞窟の中なのに、昼間みたいに明るい……?」
「これ以上ないくらい、何かありますって言ってるようなもんだな」
私達はポータブルカンテラの明かりを消すと、なるべく足音を殺して明かりのある方に近付いていく。近付くにつれ、向こう側の様子がハッキリと見えるようになってきた。
「……遺跡?」
そこはどうやら、どこかの遺跡の部屋の中のようだった。そこでやっと私は、サーク達が精霊を呼び出せなかった理由に気付く。
「サーク、もしかして……」
「ああ。あの村は、この遺跡の真上に位置している。そしてこの遺跡は精霊を動力源にして稼働する仕組みだ。だから村の中で、霊魔法を使う事は出来なかった」
「もう、昔の人ってば何でこんな仕組みを考えたのよ!」
「全くだ。……多分、村の地下に遺跡がある事を知って、穴を開けて密かに侵入したんだろうさ」
「……何の為に?」
「さあな。そこはこれから、人形師とやらを見つけて問い質すさ」
話をしながらサークと二人、遺跡の中に入る。途端に、異様なまでの冷気が全身を襲った。
「寒っ……!」
「凄いな……まるで冬の雪山だ」
薄着では堪える寒さに、私は急いでがっちりとコートを着込む。何でこんなところに穴を開けたのか。辺りを見回した私は、すぐにその理由を知る事になる。
「サーク、これ……!」
部屋の中には、表の人形達と良く似た姿の人達が列になって寝かされていた。数も人形達の数と、大体同じように思える。
「……多分、村人達だろうな」
「み、皆死んじゃったの……?」
異様な光景に身を震わせる私に手で動かないよう指示して、サークがそのうちの一人の傍らにしゃがみ込む。そして体を簡単に調べた後、顔を上げた。
「……生命の精霊はまだ中にいる。この寒さで、仮死状態になってるのかもしれない」」
「良かった……でも、ずっとこの状態が続けば……」
「ああ。いずれは、力尽きて息絶えるだろうな」
ならこの人達を、急いでここから運び出さないといけない。そう思って、一歩を踏み出した時だった。
「……何者です」
奥の通路から聞こえる、細いのに底冷えのするような声。同時に響く、カツカツという足音。
「その方々に勝手に触れられては困る。私の大事な隣人達に」
そう言って現れたのは、黒いローブを頭からすっぽりと被った人物だった。