第117話 ヒューイの意思
「はあああああっ!!」
気合い一閃、拳の一撃で行く手を阻む人形の一体の頭を打ち砕く。そして再生が始まる前に他の人形に向けて蹴り飛ばし、纏めて前方から排除する。
「あまり張り切りすぎるなよ、クーナ!」
「うん!」
「二人とも立ち止まるな! 振り返らずに走れ!」
後方から弓での援護射撃をしてくれるヒューイさんに従って、私達はひたすら足を止めずに村を駆け抜ける。私達を追いかける人形の数はどんどん増えていってるようで、背後から聞こえるガシャガシャという足音が今では大合唱を奏でている。
「見えたぞ! あれだ!」
サークが指し示した方に目を遣ると、小高い丘の上、一軒だけポツンと建つ他より少し大きな家が視界に映った。間違いない……あれが人形師の家だ!
「うわっ!」
けどその時背後から聞こえた悲鳴に、私は思わず振り返る。するとヒューイさんが、人形の一体に腕を掴まれているのを目撃した。
「危ない! 『出でよ氷塊、我らが敵を撃ち抜け』!」
私は咄嗟に氷のつぶてを生み出し、人形の腕に向けて放つ。氷は人形の腕を肘から破壊し、それによりヒューイさんは拘束から解放される。
「俺の事は見捨てていい、行ってくれ!」
「そんな訳にはいかないよ、ヒューイさんも一緒じゃなきゃ!」
「駄目だ、それじゃ……償いにならない!」
償い? ヒューイさんの発した一言が、私の足を止める。
償いって、何の? そして……誰への?
「クーナ、左だ!」
思考の海に入りかけた意識を、サークの声が引き戻す。私はすぐさま左を振り返ると、こっちに向かって腕を伸ばしていた人形を全力で蹴り飛ばした。
「ありがと、サーク!」
「今はここを突破する事だけに集中しろ!」
「ごめん!」
私は慌てて思考を振り切り、戦いに集中し始める。そうだ、今は……この村の異変を解決する事を優先しなきゃ!
人形師の家はもうすぐそこだ。私は走る足に全力を込めると、何故か開いたままになっている扉の中に一直線に駆け込んだ!
「よし、後はヒューイが来たら扉を……」
私とほぼ同時に屋内に辿り着いたサークと共に、私は再び後ろを振り返る。けれど――。
「……ヒューイ、さん?」
ヒューイさんは、ついてきてはいなかった。私達より大分離れた所で、たった一人、人形達を引きつけて戦っていた。
「……あの馬鹿……!」
「サーク、どうしよう……! すぐ助けに行かなくちゃ!」
私は焦りを覚えながら、サークを振り返る。けどサークは、無言でヒューイさんに背を向けた。
「サーク!?」
「……このまま奥に進む。ヒューイが作ってくれた絶好のチャンスだ。逃す事は出来ない」
「でも!」
勿論私は異を唱えるけど、サークの足は止まらない。私はサークとヒューイさんを交互に見比べて、結局、サークの後を追ったのだった。