第116話 危うげな眼差し
「……さて、問題はどうやってあいつらを突破するかだが」
窓の外を見遣り、サークが眉根を寄せる。確かに、それが最大の問題だ。
人形師の家があるとおぼしき丘は、この辺りにはなかった。という事は、村の奥の方まで行かないといけない事になる。
「また俺と誰かが囮になろうか?」
「いや、今度は向こうでも戦闘になる可能性が高い。となれば、人手は最低でも二人は欲しい。エリスに身を守る術が現状ないのなら、囮役は一人という事になってしまう」
「確かに……一人で囮は厳しいな……」
「ごめんなさい、足手纏いになってしまって……」
「仕方無いよ。霊魔法が使えないんじゃ」
私はそう言って、エリスさんを励ます。でも……どうして霊魔法がここでは使えないんだろう?
昔の遺跡にそういう仕組みの場所があるっていうのは聞いた事があるけど……。ここは遺跡なんかじゃない、ただの村の筈だし……?
「……とにかく、囮作戦が使えない以上、取れる手段は一つしかない」
「それは?」
「全員、一丸となっての一点突破。少数対多数の定石だな」
サークの意見に、私は同意の頷きを返す。私にも、それしかないような気がした。
「いけるのか?」
「あいつらは無限に再生しはするが元々の耐久力は脆い。俺とクーナの力にお前の弓の援護があれば、いけるさ」
「……解った。お前を信じるよ、サーク。本来なら、人間の彼女を危険な目に遭わせたくはないが……」
そう言って、ヒューイさんがちらりとこっちを見る。……何だろう。上手くいえないけど、ヒューイさんが私を見る目に、時々、危うげなものを感じる。
邪な感情が見えるとか、そういうのじゃない。例えるなら、そう、酷く思い詰めているような……。
ヒューイさんが昔人間のエドワードさんに救われたっていう話と、何か関係があるのかな……?
「エリスはここにいろ。もしいつまでも俺達が戻らなければ、ギルドに戻って事と次第を報告するんだ。いいな」
「……解ったわ。皆、気を付けてね」
「うん、エリスさん、行ってくるね!
私達はエリスさんに別れを告げて、武器を手に、外へと飛び出していった。