第115話 謎の人形師
私達が最初の家に戻ると、後からすぐにサークとヒューイさんも戻ってきた。二人とも怪我らしい怪我はなく、無事に戻って来れたようだ。
「よし、無事に帰ったみたいだな。そっちの首尾はどうだ?」
「ええ、こっちはクーナちゃんが日記らしきものを見つけたの」
エリスさんが、村で見つけた日記を二人に見せる。サークは日記を手に取り、隅々まで調べた。
「鍵がかかってるな……鍵は見つからなかったのか?」
「それが、探し出す前に時間が来ちゃったの」
「成る程な。なら仕方ねえ……持ち主には悪いが、こじ開けるしかねえな」
言ってサークが、道具袋から細い針金を取り出す。そして針金を鍵穴に差し込んで暫く動かすと、カチリと音がして、日記の鍵が外れた。
「サークって、そんな事も出来たんだ……」
「ま、生活の知恵って奴だ」
サークが開いた日記を、皆で覗き込む。そこには持ち主の日頃の不満が、びっしりと書かれていた。
○月×日
また今日もフレッドがのろけを聞かせてきた。結婚してるのがそんなに偉いのか。
結婚してる奴全員死なねえかな。
○月×日
犬にションベン引っかけられた。
躾も出来てねえクソ犬が。死ね。
○月×日
親父にいい加減真面目に働けと怒鳴られた。
そんなもん俺の勝手だろ。死ねよ。
「……あんまりいい人じゃないみたいだね」
日記の内容のあまりの責任転嫁ぶりに、思わず感想が声になって漏れてしまう。不満の殆どが相手に非があるとは思えない内容で、日記の持ち主が決して褒められた性格をしていない事がよく伝わってきた。
「人間さんにも色々いるけど、こういう人に関わるのは、私も嫌ね」
「二人とも、今の焦点はそこじゃないだろう」
「! 皆、見ろ、この記述……」
サークの指し示した箇所に、皆で注目する。そこにはまさしく、私達が知りたかった事が書かれていた。
△月□日
村の丘の上の空き家に、変な奴が越してきた。
人形師だって話だが、何でこの村なんだ?
何か気持ち悪いから、早く出て行けばいいのに。
△月□日
人形師の家の周りに、どんどん人形が増えていく。
興味本位で近付いたら、そのうち一体は俺にそっくりだった。
まさか全部、村の人間の……?
△月□日
最近、村で人が少しずつ行方不明になってるらしい。
皆は魔物の仕業だと言ってるが、俺には解る。絶対に、あの不気味な人形師の仕業だ。
冒険者なんて来る前に、俺がアイツを締め上げて吐かせてやる。
見てろよ! 俺だってやる時はやるんだ!
……そこで、日記は終わっていた。日付は、今から七日ほど前だ。
「この人形師の家、どうやら調べてみた方が良さそうだな」
読み終えたサークがそう言うと、真っ先に頷いたのはヒューイさんだった。
「外にいる人形達は多分、この日記に書かれてる村人そっくりの人形なんだろうな」
「そうね。それがどうしてか、ひとりでに動き出し人間を襲うようになった……」
「その原因だが、もしかしたら、心当たりがあるかもしれない。……クーナ、アイツらが生み出してたあの赤い立方体、覚えてるか」
サークに問われて、私は頷く。忘れる筈もない、人を人でないものに変えたあの悪魔の立方体……。
「あれを人形に埋め込んで、動力源にしてる。そうは考えられないか?」
「……! その可能性はあるかも!」
「サーク、あなた……またとんでもない事に巻き込まれてるのね」
私達の会話に何かを察したらしいエリスさんが、表情を曇らせる。ヒューイさんも、どこか複雑そうな表情だ。
「……その話は、全部終わったら改めてする。今はこの村を救うのが優先だ」
「絶対よ? ちゃんと話しなさいね?」
「とにかく、休憩を取ったら、急いで皆でその人形師の家に向かおう!」
私の言葉に、その場にいる全員が一斉に頷いた。