第114話 残された手がかり
身を隠しながら、窓の外をそっと覗き見る。外では相変わらず、あの不気味な人形達が日常の真似事をしている。
「そういえば、そもそもお前達が受けた依頼は何だったんだ?」
「このところ、村の住人が行方不明になる事件が続いている。魔物の仕業かもしれないから調べて欲しい。との事だった」
「それで来てみたらこの有様か」
「ああ」
昨日はまだ少し二人に対してぎこちなかったサークだけど、今朝はすっかりいつも通りになっている。きっとゆうべ、ヒューイさんと色んな話をしたんだろうな。
「いいかクーナ。俺達が奴らを引きつけている間に、エリスと一緒に出来る限り多くの家を調べてくれ。日記のようなものが見つかれば特に助かる。限界が来たら煙草で狼煙を上げるから、すぐにこの家に戻ってくれ」
「うん、解った」
「クーナ、姉さんを頼む。姉さんは気は優しいが、少し鈍臭いんだ」
「まぁ、失礼ね。私も冒険者よ。自分の身くらい、自分で守るわ」
「駄目だ。今は精霊が使えないだろ」
「……そうだけど」
「ヒューイさん、大丈夫。エリスさんは、絶対に私が守るよ」
「頼む。……本当なら、人間であるアンタの手を煩わせたくはないんだが」
心配げなヒューイさんに、私は力強く言葉を返す。エリスさんとはすっかり仲良くなったんだもん、勿論、怪我一つさせたりしない!
「全員準備はいいな。……行くぞ、ヒューイ!」
「ああ!」
頷き合い、サークとヒューイさんが外へ飛び出していく。人形達はそれに敏感に反応し、一斉に二人を追いかけていった。
そして、瞬く間に、私達のいる家の周囲には人形達は一体もいなくなっていた。
「よし、こっちも急ごう、エリスさん!」
「ええ!」
私とエリスさんは、人形達が戻ってこないか気を配りながら外へと足を踏み出した。
「うーん……日記日記……」
エリスさんに外の見張りを任せて、机や本棚の中を漁る。空き巣みたいで申し訳無いとは思うけど、緊急事態なのでどうか許して欲しい。
三件ほど家を回ってみたけど、今のところ村に何が起こったか解るようなものは見つかってない。サーク達もそろそろ限界が近い筈。出来れば何か収穫を得てから戻りたいけど、これ以上調査を引き延ばすのは……。
「……ん?」
その時私は、妙な違和感に気付いた。今探ってる机の、一番下の引き出し。その中が何だか、外で見た感じより底が浅い気がする。
「もしかして……」
試しに、底を軽く叩いてみる。するとそこが空洞である事を示す、軽く反響した音が返ってきた。
「二重底……!」
急いで偽の底を取り外し、中を見る。するとそこには、鍵のかけられた一冊の厚い本がしまわれていた。
「あった……! この厳重さ、絶対日記だよ!」
「クーナちゃん、外で狼煙が上がったわ!」
私が本を手に取った直後、エリスさんからそう声がかかった。ならもう、ここに長居は無用だ。
「戻ろう、エリスさん!」
「ええ!」
本をしっかりと抱え、私はエリスさんと共に、最初の家へと戻っていった。