第113話 エリスの想い
……エリスさんの話が終わった。
私は打ちのめされて、暫く何も言う事が出来なかった。サークがこんなに重いものを背負ってきたなんて、思ってもみなかった。
きっと、サークが私に話してない事はもっといっぱいあって。その分だけ、サークの心は傷を抱えていて。
支えられるのかな。たったの十六年しか生きてない、私に。
「……あなたは本当に優しいのね」
俯いてしまった私に。エリスさんは、優しく微笑んでくれた。
「あなたはサークの傷に、寄り添う事が出来る人。だからそんな風に、自分の事のように悲しんでくれる。……ねえ、あなたはサークが男の人として好きなの?」
「えっ……」
突然の質問に、私は思わず頬を熱くしてしまう。な、何で今、エリスさんはそんな事聞くんだろう?
「な、何で、そんなっ」
「そうね、私がそうだったらいいなって思っただけ。それと……もしそうだったら、後悔して欲しくないの。私のように」
「エリスさんの、ように……?」
そう言われて、一瞬どういう意味だろうと思ったけどすぐに思い当たる。それはエドワードさんの事を話していた時の、エリスさんの表情。
もしかして……エリスさんはエドワードさんを……?
「私はね……何もかもが遅すぎたの」
私の疑問を肯定するように。エリスさんが、寂しげに笑った。
「エドワードがいなくなって、私は初めて、自分が彼に恋をしていた事に気が付いた。でもサークのように何もかもを捨てて外の世界に出て行く勇気もなくて、その後も森に留まり続けた。そして、やっと森を出る決心をした時には、人間である彼はもう……」
「……エリスさん……」
「だからあなたには、私みたいな後悔をして欲しくないの。……想いを伝える先がなくなってしまってからじゃ、もう遅いんだから」
……エリスさんの後悔が、痛いほどに伝わってくる。エリスさんは伝えられなかった想いを抱えて、何十年も生きてきたんだ。
伝えられるかな。今はまだ、勇気も自信も全然ないけれど。
いつか、サークの一番側でサークを支えられる存在に、私はなれるのかな……?
「長々と話に付き合わせちゃってごめんなさいね、クーナちゃん」
「う、ううん! 私の方からお願いしたんだから」
「ふふ、明日も早いし、そろそろ寝ましょ?」
エリスさんの言葉に、私は頷く。色々考える事はあるけど、まずは目の前の事態を解決しなくちゃ。
「おやすみなさい、クーナちゃん」
「うん、おやすみなさい、エリスさん」
互いに声をかけ合って、私は、そっと目を閉じたのだった。