第110話 エドワードという男
人間さんはヒューイを治療しながら、色んな話をしてくれたわ。
名前はエドワードで、世界中の薬草を研究する為に遠い遠い国から旅してきた事。この森には、薬草の採取の為に入った事。大精霊の樹の下でサークと出会い、この森の現状を知って、居ても立ってもいられなくなってここまでやってきた事。
それを聞いて、私、人間さん――エドワードはとても勇気がある人なんだと思った。だっていくら治し方を知ってるからって、私だったら、死ぬかもしれない病気が流行ってる場所になんて行きたくないもの。
そしてエドワードが出会ったのがサークで、本当に良かったと思ったわ。だってもし他のエルフと出会っていたら、絶対に森を追い出されていたもの。
「ありがとう、エリス、サーク」
一通りの治療を終えて、突然、エドワードが私達にそう言ったわ。何の事か解らなくて、私達、思わず顔を見合わせた。
「どうしたの? お礼を言うのは私達よ?」
「君達が私を頼ってくれたから、私はこうして消えかけていた命を救う事が出来る。私はそれを、とても感謝しているんだ」
私、エドワードはとても変わってると思った。お父さん達に聞かされてきた人間の姿とは、似ても似つかない。
でも、私も、そしてきっとサークも。人間の事をもっとちゃんと知りたいって、この時、初めてそう思ったの。
「エドワード、他にも病気に侵されてる奴らがいるんだ。皆は俺が説得する。だからどうか、他の皆の事も助けてくれ!」
サークはそう言って、エドワードに縋ったわ。私も同じ気持ちだったから、サークと一緒にエドワードの目を見た。
エドワードはそんな私達に優しく微笑み、力強く微笑んで、こう言った。
「勿論だ。私に出来る事があるなら、何だってさせてくれ」
それから私達はエドワードを連れて、他のエルフ達に病気の治療をさせてくれるよう頼んで回った。最初は皆全く取り合ってくれなかったけど、治療を受けたヒューイが快方に向かってる事を知ると、少しずつエドワードを受け入れるようになってくれた。
エドワードは朝から晩まで、休む事なく皆の治療に当たった。私とサークはエドワードに頼み込んで、彼の助手になってそれを助けた。
命を救われた事で、エドワードに好意的になるエルフも少しずつ増えていった。このままいけば、きっと何もかも良くなる。私とサークは、そう信じて疑わなかった。
でも、そんな自分達が甘かった事を――私とサークは、この後思い知る事になるの。