第108話 地獄の始まり
私達が生まれたのは、この中央大陸にあるラヌーンっていう森。そこではエルフ達だけで、穏やかな暮らしをしていたの。
他の森はどうか解らないけど、ラヌーンの森のエルフは皆人間嫌いでね。人間を絶対に、森に寄せ付けようとはしなかった。
そんな中であの子は、サークは人間や、森の外の暮らしに興味津々だった。よく森の外の事を気にしては、おじさまやおばさまに怒られていたわ。
でもね、私だけは、そんなあの子を否定しないようにしたの。だって、色んな事に興味を持つのは、とってもいい事だと思ったんですもの。
そうしたらあの子、すっかり私に懐いちゃって。関係は従姉弟だったけど、本当の姉弟のように育ったのよ、私達。
そのうちにヒューイが生まれて、サークも大きくなって……あの事件が起こったのよ。
あれは、そうね……それぞれ私が二十六、あの子が十八、ヒューイが七歳ぐらいの時だったかしら。いつもと変わらない、穏やかだった筈の日に、それは起こったの。
「た、大変だ、大変だ!」
私達がいつものように森の外れで遊んでいると、突然、森のエルフがやってきたわ。そして、私に向かって向かってこう言ったの。
「エリス、お前の父さんが倒れた!」
「え!?」
私、サークとヒューイを連れて急いで家に戻ったわ。家ではお父さんが、荒い息を吐きながら寝込んでた。
お父さんの姿を見てね、私、情けないけど喉が引きつったわ。だって……。
「……!」
お父さんの足は……不気味に変色してた。微かに、膿の臭いも漂ってた。
腐りかけてるんだって、すぐに解った。けど、どうしてそんな事になってるのかは全然解らなかった。
「お母さん……お父さん、どうなっちゃったの……?」
私は傍らにいたお母さんに聞いたわ。お母さんはすっかり顔に色を無くして、泣きそうな顔をしてた。
「解らない……解らないわ……」
「エリス、叔父さんの具合は……?」
その時外でヒューイと一緒に待たせていたサークが声をかけてきたわ。私、それを聞いて、そうだ私がしっかりしなくちゃって思って。
「大丈夫よ。でも今日は看病があるから、ヒューイはあなたの家に泊めて貰っていい?」
「あ……ああ。解った」
サークはすぐに了承して、ヒューイを連れて自分の家に向かってくれた。それに安心して、私は、お母さんと一緒にお父さんの看病に取りかかったの。
看病の甲斐なく、結局お父さんは、三日後に全身が腐り果てた状態で息を引き取った。突然のお父さんとの別れが悲しくて、私はその日一晩中泣いた。
でも、それは始まりに過ぎなかったの。それからすぐ他のエルフが倒れて、同じように全身が腐っていって、そういう人がどんどん増えていって――。
――私達の森は、地獄と化したの。