第99話 神の器(クリスタ)
「……クッハハハ。参ったなァ。こりゃオレ様の完敗だ」
全身を、尽きる事のない炎に包まれながら。どこか満足げに、バルザックは嗤った。
どうやらもう、氷を生み出す力もないらしい。さっきのようにバルザックが、氷で炎を消火する事はない。
「約束よ。教えて。クリスタって、一体何なの?」
「いいぜ……教えてやるよ。どうせ知ったところで、テメェらにゃどうにも出来ねェしなァ」
体が鉱物で出来ているからだろう、こんな姿になっても流暢にバルザックが言う。そして今までと比べると実に静かに語り始めた。
「……『神の器』ってなァ、カミサマの器。オレ様達のとは別の世界にヴァレンティヌス様が降臨する為に必要な、聖なる依り代の事さ」
「依り代……?」
「『神の器』になれンのは、降臨させたい世界の人間だけ。それもその世界のカミサマに、近い人間に限られる」
「どうして?」
私が問いかけると、バルザックが炎の中でニヤリと嗤うのが見えた。その笑みに、私は軽い寒気を覚える。
「神に近い人間を器にする事によって、ヴァレンティヌス様の中にその神の力が宿る。そうすりゃ、その世界の神の加護を打ち消す事が可能になる」
「なっ……!」
「そうすりゃ神の加護を受けた人間だろうが何だろうが関係ねェ。あのお方に敵うものは、その世界のどこにもいなくなる」
そんな……その為に必要なのが、私? 私の体を使って、この世界を滅ぼそうっていうの……!?
「『神の器』となる者が強けりゃ強ェほど、それを依り代としたヴァレンティヌス様の力も増す。いやァ、嬉しい誤算だぜ。この世界の『神の器』が、オレ様を倒せるくらい強ェとはなァ……!」
「……っ、私は『神の器』なんかにならない! 絶対に……!」
「なるさ。テメェは絶対に逃げられねェ。オレ様の勘は当たるんだよ」
バルザックの体のひび割れは、最早顔にまで広がっている。もうすぐ、その命は消える事だろう。
最大の脅威である筈の、『四皇』の一人を倒した。それなのに……こんなに心が晴れないなんて……。
「それじゃあ、精々これからも強くなってくれよ。オレ様達の為になァ……ギャハッ、ギャハハハハハハハハッ!!」
高笑いを上げ、バルザックの体が崩れていく。私の耳には、バルザックが完全に動かなくなってもなお、その嗤い声がずっと響いていた。