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星空の小夜曲~恋と未来と、少女の決意~  作者: 由希
第2章 中央大陸編
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第92話 簒奪の悪魔

 王都アウルに近付くにつれ、訪れた街に異変が起こり始めた。

 私達とは逆方向に向かう、つまり王都から離れようとする人が異様に多い。その数は、アウルに近付けば近付くほど増えていく。

 そして、彼らは口々にこう言うのだ。


 「この国は悪魔に占領された」と――。


 詳しい話を聞きたいと思った私達だったけど、アウルから避難してきた人達は皆この国から離れようと必死で、まともな話なんて殆ど聞けなかった。辛うじて解ったのはお城が何者かに襲撃され、王様も囚われてしまったという事。

 もしかしたらまた、異神の手先の仕業かもしれない。そう思った私達は、アウルへの旅路を更に急いだのだった――。



「……まるでゴーストタウンだな」


 人気のない大通りをベルの泊まっている筈の宿に向かって歩きながら、ポツリとサークが呟いた。

 本当なら人で賑わっているだろう昼下がりの大通りには、今は人影一つ見当たらない。きっと殆どの住民は、このアウルから逃げてしまったんだろう。

 建物の破壊の跡だとか、血痕だとか、城下に目立った被害が見られない事にホッとする。お城を乗っ取った奴は、一体何が目的でそうしたんだろう……。


「ここだ」


 そんな事を考えていると、不意にサークが足を止めた。見ると目の前の宿に、ベルの手紙にあったのと同じ名前の看板が掛かっている。

 中は静かだけど、微かに人の気配らしきものが感じられる。サークは私に無言で目配せすると、一歩前に出て閉まっている扉をノックした。


「……」


 中からは、何の反応も返ってこない。それでもめげずにもう一度サークが扉をノックすると、中から「……誰だ」という低い声が聞こえた。


「冒険者だ。このアウルで異変が起きていると聞いてやってきた」

「……」


 場を支配する、一瞬の沈黙。けど間もなく、扉の向こうでカチリと鍵の開く音がした。

 サークが開いた扉の向こうでは、武装したままの冒険者達が数人、食堂の椅子に腰掛けているのが見えた。その中に、ベルの姿はない。


「お前達は、この宿の客か?」

「いや。金がなくて、この国から逃げる事も出来ない連中が住み着いただけさ」

「無賃宿泊って訳か」

「仕方ないだろ? 稼ぎたくても働き口がないんだ。もう、この国にはな」

「あの、ここに、金髪の神官戦士が泊まってませんか? ちょっとキザな感じの」


 ベルの安否が気になって、私は話に割り込んでそう問いかける。それに答えたのは、無精ヒゲを生やした中年の男の人だった。


「この辺りで有力な冒険者は皆、ギルドで城の悪魔への対策を練ってるよ。俺達がここを根城にした時にはもうここは無人だったから、そっちじゃないか?」

「悪魔……ここに来る途中でも聞いたが、本当に悪魔なんてものがいるのか?」


 私も気になっていた事を、サークが代わりに口にする。するとその場にいた全員が、一斉に大きく頷いた。


「ああ、なんでもそいつは触っただけで人を凍らせる力を持っていて、それを見た奴も何人もいるそうだ。そんな事が出来る奴は人間なんかじゃねえ。俺達普通の冒険者じゃ敵わねえよ」


 青ざめながら告げられた言葉に、私とサークは顔を見合わせる。触っただけで人を凍らせる……そんな力を持つのは、私達の知る限りただ一人。


 ――『四皇しこう』の一人、バルザック。あいつが、この国にいる――!


「アンタらも逃げられるなら、早く逃げた方がいいぜ。悪魔なんて、伝説の『竜斬り』でもなけりゃ勝てっこねえよ……」

「……その『竜斬り』がこの国に来てるとしたら、どうする?」

「え?」


 聞き返す言葉に、サークは応えない。ただ宿の皆にくるりと背を向けて、スタスタと歩き出した。


「行くぞ、クーナ」

「あ、うん」


 私もそれに続き、急いで宿を後にしたのだった。

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