第83話 時をかけたクーナ
「……誰かいるのか?」
私に気付いたらしい男の人が、その場に立ち止まり黄色い玉が先端に嵌まった杖をこっちに向ける。それに慌てて、私は咄嗟に両手を上に上げて敵意のない事をアピールした。
「ま、待って! 攻撃しないで!」
「貴様は何者だ。何故遺跡の深部にいる」
「解んないの! 目が覚めたら何でかここにいたの!」
「……」
我ながら説得力に欠けると思ったけど、本当なんだから仕方無い。でもそんな私の必死さが通じたのか、男の人は暫く私を険しい顔で見つめた後、スッと杖を下に降ろしてくれた。
「し、信じてくれたの?」
「……嘘を吐くならば、もっと合理的な言い訳を並べるだろうからな」
そう言って近付いてくる男の人の顔は、険しいまま。……当たり前だけど、どうやら完全に警戒を解いてくれた訳じゃないみたい。
「貴様、名は」
「あ、えっと……クーナ……です」
「ここにいる理由として、思い当たる事は?」
「それが、さっぱり……」
男の人の問いかけに、一つ一つ答えていく。……それにしても、本当に肖像画で見たひいおじいちゃまによく似ている。
もしかして、ひいおじいちゃま本人……? いやいやまさか、でも……。
「あの……あなたのお名前は……?」
悶々と考え続けるよりは聞いてみようと、私は思い切って名前を尋ねてみる。すると男の人は、憮然とした顔でこう答えた。
「……クラウスだ」
「……!」
予想は出来ていた答えだったとは言え、やっぱり驚きを隠せない。やっぱりこの人は本物の、若い頃のひいおじいちゃま……!
でも、何で? 何で死んだひいおじいちゃまが、若い頃の姿でこの時代にいるの?
(……ん、ちょっと待って?)
そもそもここは、本当に私の時代? だって、起きたらいきなりこんな所にいたのは私の方で……。
どっちも普通なら有り得ない話だけど、どっちの説を取るかと言ったら、そっちの方がまだ説得力がある。……ええい、ここも一つ、悩むより聞いてみろ精神!
「ひいおじ……じゃないクラウスさん! 今ってグランドラ共和国建国何年目!?」
「ハァ?」
流石に脈絡のない質問すぎたせいか、ひいおじいちゃまが怪訝そうな顔になる。私の事をより不審な目で見ながら、それでも質問には答えてくれた。
「……グランドラは王国だ。そもそも共和国というもの自体、もう何百年もこの世に生まれてないだろう」
「……っ」
私の学んだ歴史では、グランドラが王政から共和制に移項したのはおよそ七十年前。ひいおじいちゃまが冒険者を引退し、ひいおばあちゃまと結婚してアウスバッハ家を継いだのと同じ年だった筈。
という事は……やっぱり私……。
(ひいおじいちゃまが現役だった頃の時代に来ちゃったのおおおおお!?)
辿り着いた結論に、私の頭が一瞬、真っ白になった。