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第1話 銀の小手の少女

「やああああっ!」


 目の前の青紫の肌をした人型の魔物――ゴブリンに、後ろ回し蹴りを喰らわせる。それは見事にゴブリンのこめかみにクリーンヒットして、ゴブリンは私の足が動く方向に吹き飛ばされていった。

 視界に映る、風に流れる自分の長い黒髪。拍子に被っていた黒い三角帽子が脱げて地面にぱさりと落ちたけど、拾いに行ってる暇はない。


「ギギギィッ!」

「!!」


 背後から聞こえた声に振り返ると、別のゴブリンが木で出来た棍棒を高々と私に向けて振り上げているところだった。私は上体を後ろに反らしてそれをかわし、棍棒が空を切ったところで無防備な顔面に小手に覆われた拳をお見舞いした。


「ギャッ!!」

「ギギッ、ギギギッ!」


 ゴブリンを殴り飛ばしたところで、今度は二匹のゴブリンが一斉に私に向かってくる。それを迎え撃つべく、私は構えを取り直した。


「もうっ、しつこい!」


 二匹が間近に迫ったところで身を沈め、足を伸ばし体を一回転させて二匹の足を同時に払う。私の動きについていけなかったんだろう、二匹は簡単に足を取られてそれぞれ尻餅を突いた。

 すぐさま立ち上がって素早く辺りを見回すけれど、まだまだ周囲のゴブリン達が尽きる様子はない。さっき転ばせた二匹も、見ればお尻を押さえながら立ち上がろうとしているところだった。


「むー、こうなったら!」


 立ち上がろうとしている二匹から距離を取り、左手を天にかざす。古いけど美しい彫刻が刻まれていると解る銀色の小手の手の甲に嵌められた、丸い真っ赤な石が陽の光を反射して輝く。

 そして私は拳を握り締め――解放の言葉を唱えた。


「『我が内に眠る力よ、爆炎に変わりて敵を撃て』!」

「ギギッ!?」


 唱え終わると同時、激しく燃え盛る大きな炎の塊が小手から上空に向けて発射される。炎の塊はある程度まで上昇すると弾け、辺り一帯に火炎弾となって降り注いだ。


「ギギャアアアアアッ!!」


 ゴブリン達は炎の雨から必死で逃げようとするけど、この枯れ木ばかりの林じゃ逃げ場はない。瞬く間にその場にいた総てのゴブリン達が、炎に焼かれ倒れていった。


「はあ……結局また魔法に頼っちゃった……」


 もう動くゴブリン達がいない事を確認してから、帽子を拾って被り直し盛大に溜息を吐く。ゴブリン程度の魔物にも致命傷を負わせられないんじゃ、私の格闘術もまだまだだと言わざるを得ない。

 世の中には、己の肉体一つでどんな魔物も仕留められる凄い冒険者もいるって言うのに。そう自分の未熟さを嘆いていると、遠くから私を呼ぶ声が聞こえた。


「おーいクーナ、そっちは終わったか?」

「サーク!」


 私が声のした方を振り返ると、木々の向こうから一人の男の人が姿を現した。淡い砂色の髪に紫の瞳。背は高くて、額には若草色のバンダナを巻いている。

 中性的で整った顔立ちも目を引くけど、一番目を引くのはその耳。先がピンと尖った耳は、人とは違う種族――エルフの証だ。

 この人の名前はサーク。私の冒険者としての先輩兼、旅のパートナーに当たる。


「もう、置いてくなんて酷いよっ」

「むくれんなって。乱戦に強いお前が大勢を引き付けてる隙に散策の得意な俺がゴブリン共の根城を探る。適材適所だろ」

「だからって「ここは任せた」の一言っきりでさっさと行っちゃうの酷くない!? レディに対する扱いじゃないよ!」

「俺の基準では魔物を拳の一撃で沈める女はレディと言わない」

「もー!」


 私がどんなに文句を言っても、サークは涼しい顔で受け流すばかり。それが不満で、私はますます頬を膨らませた。

 サークとは、私がまだ五歳の頃からの付き合いだ。昔名うての冒険者だったひいおじいちゃまの相棒だったサークとは家族皆が交流があり、私も小さい頃はよく遊んで貰っていた。

 昔はとっても優しかったのに……。こうして一緒に旅をするようになってからは、いつもこんな調子だ。

 私の腕を買ってくれてるのは嬉しいけど……もうちょっとぐらい昔みたいに優しくしてくれてもいいんじゃない?


「それで!? そこまで言うからには当然、根城を見つけたんだよね!?」

「当然だろ。でなきゃ戻って来ねえよ」


 思いっきりサークを睨み付けてそう聞くと、愚問だとばかりにサークが鼻を鳴らす。ひいおじいちゃまと組むまではソロでいた期間の方が長かったというだけあって、基本的に一人で何でも出来ちゃうのがまた頭にくる。


「じゃあ案内して! こうなったらゴブリン全員、纏めてぶちのめしてやるんだから!」

「へいへい」


 気のない返事をして、サークが先に立って歩く。その後について歩き出しながら、私はふと両腕の銀の小手に視線を落とす。


「……私、今日も頑張るから。見守っててね、ひいおじいちゃま」


 その言葉に応えるみたいに、小手がキラリと光った気がした。

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