プロローグ:とあるアパート201号室にて
天気は快晴、世の主婦は洗濯日和と喜ぶ日曜の午前中は俺にはただウザいだけの光でしかなかった。
窓から痛いほど刺す(差す)日差しのおかげで目を覚まさざるをえなくなった俺は仕方なくベッドから体を降ろした(崩れ落ちた)。
携帯電話を手に取り時間を見る。
「…まだ10時過ぎじゃねぇか」
体に残る眠気を取りながら辺りを見回す。
「…眼鏡」
近眼が故に眼鏡をかけている俺。
ケースにしまわない俺は枕元に置いた眼鏡(0.3乱視用)をかける。
「…あぁ、眠ぃ」
大きく欠伸して洗面台の前に立つ。
「ボサボサだな…」
鏡の前で寝ぐせ頭を掻き毟り、そのままシャワーへ。
ユニットバスな為、すぐ隣が風呂。
寝ぐせを取り除く。
シャワー浴びてるのにまだ…眠ぃ。
そのままバスタオルで軽く体を拭きながらパンツ一枚で部屋を闊歩できる環境。
ビバ一人暮し(笑)
…のはずだった。
シャワーから上がると何故か部屋に大きなトランクを丁度、今置いた女性…しかもこれはメイド服か?メイド服なのか?
目の前の現実を把握しきれない俺は裸同然のまま立ちすくむしかなかった。
「だ…誰だ?」
メイド服の女性はこの姿に動じることなく丁寧に挨拶をしてくれた。
「初めまして、ご主人様。本日よりご主人様のお世話係をさせていただきます、エマ・マキシウェルです。ふつつか者ですが、精一杯御奉仕させていただきますので、どうかよろしくお願い致します」
深々と頭を下げるエマと名乗る女性。
ふわりと舞い上がるダークブラウンの髪からは女性特有のシャンプーの…
って言ってる場合じゃないだろ、俺!
「いや、あんたが誰とかじゃなくて…いや確かに名前も知らないと…じゃなくて、まずどうやって家に入った?!新手の泥棒か?!」
本当に状況が把握出来ない時ってどうしてこんなにもテンパってしまうのだろう。
「部屋についてはご主人様の御両親様に許可を得まして合鍵を使用させていただきました」
合鍵?!
つか親?!
ますます理解不能…
…いや、待てよ?
そういえば親父達が少し前にエアメールで世話係をよこすって…
記憶と状況の整理を同時進行する中、エマは散らかった部屋を片付け始めた。
「ちょ、ちょっと待て!勝手に触るな!」
「と言われましても…それでは掃除になりませんので」
聞く耳持たぬまま、リビングは掃除されてしまった。
そう、これは一人暮しを満喫していた俺、高瀬悠に突然メイドと一つ屋根の下で暮らす羽目になってしまう、非現実的物語の始まりに過ぎなかった。