散る
正直に言うと私は少し両親を恨んだ。
こんなことルカにも、勿論祖母にも言えるわけがなかった。殊更祖母には。
二十数年前、私の母国はなくなってしまった。そして誰一人として生き残らなかった、私を除いて。
この時のことを祖母と話したことはない、私もどう聞けばいいか分からないし・・・なにより偶然見た祖母の様子からそんなこと聞けるはずもなかった。
だから私の推測になってしまうが恐らく二十数年前のあのとき、皆分かっていたのだろう。国が滅ぶことを。なのに誰も逃げようと、助かろうとしなかった。
これはある種の心中なのだろう。あの時、あの国の人にしかわからない想いがあったのだ。そして例に漏れず私たち家族も母国とともに心中するはずだった。
しかし両親のどちらか(恐らくだが母だろう)が私を何とか生かそうとした。生かすために外国出身である祖母に頼んだのだろう。
祖母はそれを聞き入れ私を連れて国へ帰った。
一度だけ、祖母が写真を見ながら泣いているのを見たことがある。それは今はなき故郷の風景の中に佇み微笑んでいる祖父の写真だった。
祖父は私が物心つく前に他界していて写真でしか見たことがなかったが、祖母がその時見ていたものはその中でもお気に入りだと言っていたものだった。
本当は祖母も愛した人が生まれ育ち、一緒に暮らしたあの国で最期まで一緒にいたかったのだろう。
私は祖母と祖父を引き離したようでとても申し訳なくなった。
愛しいと想う人ができて当時の両親の気持ちが分かってくる。
生きて欲しい。自分がいなくてもどうか生きて、幸せになってほしいこれが自分の一人よがりだとしても。たくさん苦労するだろう、死んでしまいたいと思うかもしれない・・・・・それでも生きて欲しかったのだろう。
立派な親心だと思う。けど、私はやはり少しだけ恨んでしまう。
たった一人、私もあの時の皆のような意識が残っているというのに。探せばもしかしたら私と同じ人がいるかもしれない。皆においていかれ、誤魔化しようのない孤独感と寂しさに何度、何度皆と同じところへ行こうとしたか。
しかしその度にルカのことを思い出してしまう。
けど、それももう終わりだ。
体が冷え手足がもう動く気もしない、血が流れ過ぎたのだろう、激しい怒号と銃声も段々と聞こえなくなってきた。
空は清々しいほどの快晴でとても美しい。この美しい景色をもっとよく見ようとするが瞼が下がってくる。あれだけ騒がしかった音はもう何も聞こえない、心地のいい眠気がやってくる。
その眠気に逆らうことなく体を預け、瞼が完全に下りる寸前、薄い桃色の花弁がひらひらと舞っているのが見える。
もう二度と見ることの出来ない美しい花を共に見てみたかったと思う人を思い浮かべた。