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夢の終わりの物語 ~Story of end of dream~  作者: 深水 浅火
外章・黄昏の騎士編
6/11

追憶

夜中、人目も憚らず庭で素振りをする。

月明かりに汗が照らされている。

土を踏む音が耳に届く。


「帰って来たのか先生」


振り返ると師が立っていた。

すこし老けたな。

少年は呟いた。


デネブは鼻を鳴らした。

「歳もとるさ」


彼の頰には、以前なかった切り傷が走っていた。


「今回はキツかったのか?」


少年が問うと、彼は芝生に腰を下ろした。

目配せされ、少年も隣に座った。


「ああ。先が見えないのは辛いよ」


デネブは空の星を眺めていた。

ぼそりと言った。

「私は世界を平和にしたかった」

皺の増えた顔で懐かしんでいた。

つぶさに少年は反応した。

「先生は世界を守ってるだろ」

師は口を閉ざした。

教え子は横目で見つめる。

「先生……入団試験を受けるよ」

「そうか」

「それで、俺も平和を探すよ」

しばしの無言が続いた。

されどそれは居心地の悪いものではなかった。


「……ヴェガは」

またぽつりぽつりと言った。

「あの娘は世界に夢を抱いている」

その夢は、きっとあの空の綺羅星よりも尊く、穢れないものだ。

「だからこそ、私は恐ろしくなる」

「恐ろしく?」

「ああ。あの娘の夢が、現実を知り壊れてしまわないか」

少年は断言する。

「その心配はない」

「なぜ?」

まるで出会った頃の問答だった。

「だってヴェガは先生が一から育てたんだ。俺よりも、同い年の誰よりも大丈夫なんだよ」

デネブは片方の口元を釣り上げた。

「そうだな、私は騎士団長。あの娘はその愛娘だ」

「ああ、自信をもっていい」


翌日、少年は庭で剣術の練習を行っていた。

屋敷の窓から、父と娘の姿が覗く。

談笑して、紅茶を飲んでいる。

一瞬、娘がこちらを見た気がした。

肩がびくりとした。

先生にはあれほど大口を叩いた。

でもジレンマに陥っているのは自分自身だった。

暗がりの世界に生まれ育ち、どこか失望が胸に宿る自分では、高潔な彼女を汚してしまうのだ。


雑念を振り払おうと少年はひたすらに剣を振り続けた。










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