希望
人の首が無数に落ちている。
草花すらも生えない焦げた大地。
火薬のつんとする香りが臭う。
曇天の空は次第に色を更に黒く染めて行く。
幼さの残る少年は、屍の鎧をまさぐった。金や銀の指輪の一つ出ることも稀ではない。
少年は、腰帯に金目のものを片っ端から吊るして行く。
死人が恨めしそうに見る。
少年は目にもとめない。
所詮、死人だ。
死人に口なし。もはやモノと変わらない。守るべきは過去のモノじゃない。大切なのは今、そして未来に繋ぐことだ。
背後から土を踏む音が鳴る。
咄嗟に振り向く。
少年は急いで距離をとった。
不覚にも間合いまで詰められていた。
男は白髪頭で、マントの下に厚いレザーの服を纏っていた。
洗練された眼光が捉える。
刺すような空気。
少年は睨んで問う。
「なんだよ、おっさん?」
「キミはどう思う?」
質問を質問で返される。苛立ちが募る。
軽く舌打ちを打つ。
「なにをだよ」
「この、戦場のありさまさ」
訊かれ、少年は改めて周囲に目をやる。
溢れかえった死人。人間の野心と憎悪が丸裸にされている。
「ん」
鼻先に冷たいものが触れる。
雨が、降って来た。
瞬く間にざぁざぁ音を立てる。
されど濡れたところで彼らの無念が払い落とされるわけではない。
「別に、なんとも思わない」
「なぜ」
男は憮然とした態度を崩さない。
「俺にはこいつらを助ける手段がない」
「なるほど」
「俺の親は戦争で殺された。戦争で人は死ぬもんだし、いちいち悲しんでられないだろう」
男は少年をじっと凝視する。彼の鷹の如き眼は全てを見透かすかのようだった。
「キミ、私について来なさい」
唐突に男は言った。
「嫌だと言ったら?」
「それならそれで構わない」
不思議な男だった。
強制でないはずだったが、頷かざるを得ない求心力があった。
「……いくよ」
「ああ、いこう」
やがて二人は血が滲む地を去った。