夢の始まり、世界の終わり
ふと気が付くと、と真っ暗な闇の中だった。なにもない、吸い込まれそうな暗闇。あるいはすでに吸い込まれていて自覚がないだけか。
なんだろう、あまりに現実感がない。
夢だろう、夢に違いない。そうじゃなければ困る。
「……なんだ、あれ?」
遠くに白い点がある。
明かりだろうか。段々大きくなってくる。
思った次点で気づく、点は近づいてきている。もう遅かった。
いきなり、眩い光が俺の瞳に襲い掛かる。痛みを錯覚して、つい屈みこむ。
顔を上げると、闇の世界は青く染まっていた。
終始意味が分からないが、夢なんだからしょうがない。
目線を落とし、ふうと溜息をつく。
呼吸が止まる。
目下には小さな街があった。青く茂る森があった。切り立った峰々すら背が低く見える。
ここは遥かな天空だった。
足がすくみ、体が動かない。
何より驚くべきことは、今の自分が空を浮いていることだった。
夢にしたって、やけにリアルだ。
流れる風が肌を撫でているのが分かるほどだ。
頭上には燦然と太陽が輝いている。
真下の三角コーンみたいに尖った山から、なにかが飛んできた。
今度も白っぽい点だった。少し青味がかっている。
鳥か?
例の如く、気づいた時にはすでに遅い。
異様に発達した翼と、整列した銀の大鱗。
比較的爬虫類的な骨格と、それだけに留まらない神秘。
見間違えようもなく銀色の竜だった。
竜は俺に向かってジェット機みたいに飛んでくる。
なにがどうなっているんだ。
このままでは死ぬ。死ぬがしかし、体はなおも自由に動かない。金縛りにあっているみたいだ。
まずい衝突する。
思わず目をつむると、ぞわりと何かが体を通り抜けた。
目を開き後ろを振り向く。
そこには俺など気にも留めず悠々と空を旋回する竜の姿があった。
まもなくして竜は巨大な雲海の中へ消えてしまった。
「なにがどうな──んっ!?」
今度は唐突なめまいに襲われた。
車酔いなんかよりもよっぽど気分が悪い。
ぐらつく視界。
瞬間、世界が一転した。
白亜のビルが立ち並ぶ街。交差点。
遠くに俺の通う木之舞高校の校舎が見える。ということはここは特区だろうか。
数多の人の群れが忙しなく十字路を渡っている。
夢だけあって流石の脈絡のなさだった。
「……あ!」
俺は発見した。
少し先の歩道橋の脇、そこで女の子と楽し気に話している男子生徒を。
彼は手入れのない無造作な髪型で、木之舞高校のブレザー、制服を着ている。
要するに俺がいた。
いよいよ可笑しな展開になってきた。
もしや幽体離脱しているのか、とも思ったが、ならなぜもう一人の俺は眠っていないのか。
もしやドッペルゲンガーか、とも推理したがそれはさすがに馬鹿げている。
まあそもそも言えば、夢の内容がまともなワケはないのだが。
次いで、意識はもう片方の少女に向けられた。
白いワンピースに漆を塗ったような黒髪が映える。東洋人かと思ったが、顔立ちは寧ろ西洋寄りだった。絵の中の人物みたいに整った顔をしていて、青い瞳が印象的だった。
こんな美人とお近づきになった記憶どころか、テレビで眺めた覚えすらない。
不思議でならなかったが、最早考えるのも疲れてきた。
不意に横の電光掲示板が目に入ってきた。
その内容の一つだって知らなかったし、興味もなかったが、板の右上の数字に意識を奪われた。
2099年、五月七日。
俺の記憶が正しければ、今は2098年12月31日つまり大晦日だ。
あまりにも稚拙な論理だが、しかし脳裏をよぎる。
これは、未来、なのか。
そう思った矢先。
俺は夢から目が覚めた。
OP終了です。
これから世界観をより広げてけるよう頑張っていきます。