71.新たな仲間とカツサンド
「ユウ様!」
『主様〜』
宿へとラビと共に戻ると、シルネが胸に向かって飛び込んできた。キハクもシルネの護衛に一緒に返してはいたが2人とも不安だったみたいだ。
どうやらあの後、すぐにジルサさんの部下が謝罪と共に連れて行った経緯と、理由を説明しにきたらしいが、それでも不安なシルネは、サラムさんが落ち着きのないシルネを一喝し、大人しくさせるまでは 1階のテーブルで塞ぎ込んだり、ウロウロと落ち着きなく歩き回っていたらしい。
フワリとしたシルネの頭を撫でながら、落ち着かせているとサラムさんが僕と僕の後ろに控えるラビに視線を向けた。
「その子が例の子だね」
「はい。新しく僕のメンバーに加わった月兎族のラビです」
胸から離れようとしないシルネは取り敢えずそのままに、サラムさんにラビを紹介する。部屋自体は余裕のあるキングサイズのベッドだし、変わる必要がないと言われてしまった。川の字決定である……。
月兎族と紹介されたところで、目立たぬように被せたままのフードを取り払い、ぺこりとお辞儀をするラビはやはり最低限の口数のままだった。
「まぁ。なんて可愛い娘だい。それに………色々大変な目にあったみたいじゃないか。よかったねユウはいい男だよ。安心するといい。それとユウ。奴隷になる子が何も持たない女の子と聞いたからね。一応レムの小さい時の服でよければ譲れるがどうするね。」
ラビの顔と全身を一度確認したサラムさんは、なにか含んだような同情をラビに向け、安心するように優しくゆっくりと話しかけた。
「えっほんとですか。ありがとうございます。有り難く頂きます。良かったねラビ」
「!……あ ありがとうございます。サラム様…ご主人様」
驚いた様子で頭を下げるラビが、その反動でフラっと体勢を崩しそうになり、腕を掴み支える。
想像以上に細いその腕に、ラビの状態が容易に想像出来た。
口数少ないのも限界が近いという事だろう。
「よし。サラムさんちょっと厨房お借りしますね。どう考えても栄養失調気味だし、すぐに何か食べさせないと」
ラビを座らせ、シルネに介助をお願いし、僕は厨房へと向かった。
食材庫を見渡し、栄養失調気味のラビへのメニューを考える。
出来る限り消化の良いものとは思うが、別に病気な訳ではない。肉も野菜もしっかり使って満腹にしてあげよう。
〜地鳴鳥の親子スープ〜
材料(6人前)
地鳴鳥のコンソメスープ
レモネ 1/2個
塩・胡椒 適量
酒 少々
ラビエ豚のベーコン 6cm位
ゴロポイト(大) 2個
キャロ 2本
オニオル 2玉
地鳴鳥の卵 5個
ネルーツ 2枚
クルトン 少々
水
まずは、以前作ったネルーツのコンソメスープ同様にコンソメスープを作る。
今回は、仕上げの野菜がを多くし栄養満点になるように工夫した。
仕上げ
①ネルーツを1枚剥がし微塵切りに。ベーコンは食べ応えのある1cm程度の厚さにカットし、ゴロポイトとキャロ、オニオルは水でさらして8等分にする。
②鍋に油をひいて、ネルーツを入れ火をつける。香りが良くなったところで厚切りベーコンを入れ両面に軽く焼き目をつける。
③ゴロポイトとキャロを入れ火が通る程度に炒める。
④先に作ったコンソメスープに身をほぐした地鳴鳥と炒めた具材をいれ、食材が柔らかくなるまで火を通す。最後に溶いた卵を回し入れ、一混ぜし火を止める。
⑤器に注ぎ、最後に硬パンで作ったクルトンを浮かせたら完成!
《どうぐ》の機能によりあっという間にスープも完成する。
そして、この圧力保温機能でじっくりことことと、食材に火を通している間にもう一品の料理に取り掛かる。
本日のメイン料理だ。
〜ラビエ豚のカツサンド 〜
材料(6人前)
使用包丁:虎徹【牛刀】 陽炎【薄刃庖丁】
ラビエ豚のロース 厚切り 1800g(6枚)
卵黄
グリュゼニス種
パン粉
塩、こしょう 少々
植物油 少々
醤油
ソース
オニオル 1個(1/2個すりおろし 残りは微塵切り)
ジンジア 3かけ(45g)
ネルーツ 2枚
リンア 1/3個
赤ぺパルの実 少量
ソイルー 50cc
ぶどう酒(白) 45cc+砂糖12g(味醂の代用)
キャベル 1個
食パン
バター
〜ソース〜
①ソースの材料(オニオル、ジンジア 、ネルーツ、リンア)をすりおろし、微塵切りのオニオル以外全て合わせ、よくかき混ぜておく。
②植物油を引いたフライパンを熱し、豚肉の下処理の際に切り取った脂身と微塵切りにしたオニオルを火にかけ、オニオルがしんなりとするまで弱火で炒める。
③微塵切りオニオルがしんなりとしたところで、合わせた材料を加え酒のアルコールが飛ぶ程度に煮詰める。
〜豚カツ〜
①肉の反りを予防するため、厚切りにしたロース肉の筋を両側ともに深めに包丁を入れ筋切りをし、脂身の部分にも包丁を入れる。
その際脂身の多い部分から少し脂身のを取っておく。(ソースに活用)
②下味として豚肉に塩こしょう少々を両面にふるい数分馴染ませた後、薄力粉、植物油を少し混ぜた卵、パン粉の順に満遍なくしっかりと均一につけ、4〜5分馴染ませる。
③フライパンに植物油を多めに入れて中火で熱し、160℃位で豚肉を揚げる。衣に薄くきつね色がつくまで揚げ、一旦取り出し油をきる。
④ 揚げ油の温度を180度程に上げたら、再度揚げ直し数十秒程ほど黄金色になるまでカラリと揚げ、取り出し油をきる。
〜カツサンド〜1人前
①1.5cm程の厚さに切った食パンを2枚用意し、表面にバターを塗る
②キャベルを千切りにし、食パンの上に乗せる。
③豚カツを縦半分にカットし、半分にはソースをもう半分には醤油を少し大目にかけキャベルの上に縦に乗せる。
④残ったもう1枚の食パンを乗せ、食パンを半分にカットし、ソース味のカツサンドと醤油味のカツサンドの完成。
パンに塗ったバターはこの場になくても非常に簡単に出来る。
搾りたての牛乳を貰ってきて容器に入れて、しゃばしゃばと力強くシェイクすれば、しばらくすると脂肪分が塊になりバターとなる。今回は塩を入れずに無塩バターを作り、使ってみた。
シルネに作ってもらった菜箸は、豚カツを揚げるのにしっかりとその有用性が証明された。
菜箸1本でここまで料理がしやすくなる。食材も調理道具も揃っていないこの世界だからこそ当たり前のように使っていた道具が1つ加わるだけで、その違いをはっきり感じる事ができた。
「これからも色々作って貰わないとだね」
独り言を呟きながら、菜箸ですでに良い具合で揚がり黄金色した豚カツを油切りから、まな板へと移す。
そして、虎徹【牛刀】で豚カツをザクッとカットした瞬間。
豚肉の脂身のなんとも言えない甘い香りが湯気と共に辺りに漂う。このまま更に包丁を入れ、普通に豚カツとして食す衝動を何とか抑え、ソースと醤油で味付けし、ラビが食べやすいように千切りキャベルと共に2枚の食パンで挟み込む。
ちなみにソース味と醤油味の2種を作るのは只の好みだ。昔から豚カツは塩、ソース、醤油の3種の味付けで楽しんでいた。今回も味の違う2種類のカツサンドを楽しんでもらいたいと思い、敢えて醤油味も作ってみたのだ。醤油の香ばしい香りとソースのフルーティな香りが鼻腔を刺激する。きっとしっかりとラビの食欲を刺激してくれるだろう。
器に具沢山のスープを注ぎ、皿にカツサンドを盛ったところで振り向かずに声を掛ける。
「レム。運ぶの手伝ってくれるかな?」
食事の乗せたお盆を持って振り返ると、案の定香りに誘われたレムが目を輝かせてスタンバイしていた。
もう隠れる事もしないのね……。
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食べたい物リクエストがあればいつか作れるようになったときに作ります。




