70.少女の正体
「「申し訳ございませんでした!」」
3階の部屋へと案内されると、先程の2人に土下座で迎えられた。
真っ青な顔をした2人が顔に大量の汗を滲ませながら、床に額を打ち付け何度も頭を下げる。
「なんです?これ」
普通ならばこの姿を見て、可哀想だと少しは心が揺らぐのだろうが、もとより理不尽な暴力を振るって来たこの2人を、既に許す気はない。
だからこんなパフォーマンスを見せられても、全く心は動かない。
それどころかイラッとする。絶対食欲の虜にして仕返ししてやる……。
「で?なんでまた僕がここに?何もないなら帰りますけど」
2人のパフォーマンスに不機嫌そうに伝える僕に、ジルサさんは事の経緯と、この2人が何故僕を犯罪者かのように扱ったか説明した。
どうやら、ジルサさんが連れてくるようにと命令を下した事で、自分達が痛めつけて真相を吐かせられると勘違いしたらしく、横柄な態度に繋がったらしい。
なんとも自分勝手で、人格を疑わざるを得ない2人に対し、一般市民に手を出した事で投獄し衛兵をクビにするとジルサさん含め、他の衛兵達も頭を下げ謝ってくれたが、やっぱりどうでもいい。ジルサさんを信用しているからここにいるだけで、この衛兵達にはこれっぽっちも興味がないのだ。
これ以上は平行線と判断したのか、土下座し泣き叫ぶ2人はそのまま引き摺られるように、部屋から追い出された。
そして、代わりにフードマント姿の子供程の身長の子が入ってきた。
「こ ん にち わ」
静々と挨拶をされたが、下を向き顔はフードに隠され、その声にはまったく覚えがない……。
しかし、挨拶も終わり顔を上げれば、それが誰なのかはすぐに分かった。
“ラビ”
たしか迷宮内で《しらべる》で鑑定した名前がラビだった。
小柄なその体は、緊急性が高く迷宮内ではしっかりとみることはなかったが、身長は150弱だろうか、見た瞬間美しいと思った顔は、実際はまだまだ幼さが残り、真っ赤ではないが炎のような暖色系の瞳が美しい。
しかし明るい部屋の中で見れば、その幼さの残った顔は更に憔悴しきった様子で、しかも少し瘦せぎすのその顔つきは、奴隷である彼女の元の主人からあまり食事を与えられていなかったのだろうと容易に予想出来る姿だった。
「こんにちわ。目が覚めたんだね。良かったよあんなことがあった後だゆっくり休むんだよ」
視線を合わせ、その怯えた表情で見つめるラビを少しでも安心させる為、出来る限りゆっくりと話しかけた。
「あ〜。その事なんだが…」
何故かジルサさんが、右の頬を指先で掻きながらなんとも困った表情を浮かべている。
「ユウ。その奴隷の少女の主人はユウなんだわ。だから今日泊まるところもユウの部屋になるんだな」
「は?」
一瞬で固まり、ジルサさんとラビの顔を交互に見る。
いくらなんでも展開早すぎないかい?いやいや予想はしてたよ。奴隷の仕組みだって教えてもらったし、シルネも言ってたからね。そりゃあ覚悟はしていたさ。
でも……。
「今日?」
コクン
っとラビの後ろに並んだ。
ジルサさんを含む衛兵たちが、揃って一度無言で頷く。
「よ ろし く おね がいし ま す」
フードを取り払い再度頭を下げる僕の眼前には、彼女の銀色の美しい髪と頭から伸びた兎耳が飛び込んできた。
そして、ジルサさんから渡されたカードにはしっかりと僕の名とともに、ラビの情報が書き込まれていた。
ラビ(月兎族 女)
18
槌術 脚力増加
戦闘 可
性行為 不可
契約主:ユウ
これは所謂奴隷カードらしい。あの時奴隷商でみたものと同じものだ。
名前と種族に加え、年齢とスキル、そして奴隷条件が書き込まれている。
よかった戦闘は可能か、ラビのスキルならば装備さえしっかりすれば良い戦力になりそうだ。
それにしても18?確か《しらべる》で見た時も18だったから間違いないが……。
そう思い、目の前の少女を改めて見てみるが、どう見てもその姿は10〜12歳程の少女だ。
この子を見て一発で18歳と言える人はいるのだろうか?それとも月兎族特有の種族的なあれか?ドワーフみたいな。
でも奴隷商人のクワトロさんは獣人は成長が早いって言ってたし。
「あっ あの……」
カードを見て思案している僕にラビは不安になったのか、耳が垂れ下がり、か細い声を出す。
「あぁ ごめん。なんでもないんだ。」スキルについても疑問があるし、詳しいことは帰ってからでいいか。
「では、これでこの書類にサインを貰えれば、今回の一連の処理は終了だ。この少女はこれでユウの奴隷になったわけだからこのまま雇うのも、売るのも自由だがこの子はそもそも性奴隷ではない。合意なしに手を出せば奴隷紋が発光してすぐにわかるからな。」
最後にジルサさんが爆弾を落としてくる。しないよ!こんな義務教育真っ最中みたいな子……いや18ならこの世界では合法か…合法ロリ……いやいやいや。しないよ!
でも……そうか。もうこの子僕の所有物になったんだな。まぁ売らないけどね。
ジルサさんが売るのも自由って言ったところでビックと肩が震えてたし、不安なんだろうね。
よし、腹を括ろうか。
「ラビ!僕の名前はユウだ。君の主人になる。詳しいことは宿で話すけどこれからよろしく。あっ僕のことはご主人様じゃなくてユウって呼んでね。」
そう言って右手を差し出すと、チラリとこちらを確かめるように目を合わせる。軽く頷くと。恐々としながら弱々しく右手を握り返した。
「はい。ユウ様よろしくお願い致します」
弱々しく頭を下げるその姿は、どう考えても衰弱しきっており今にも倒れそうなその体を意志の強さで支えている状態だった。
こんな子がどう言う経緯で迷宮に?
様々な疑問が浮かぶ中、ラビとともに宿へと帰宅した。
そうだまずは食事をしよう。この子が満腹になるくらいの栄養満点の食事を。




