60.スキルの力
取り出したのは、半球状の金属だった。
これは、グランファさんの所で特注した金属製の型だ。これをあてながら削っていく事で、正確な15ccを計りとれる計量スプーンとなる。
半球そのものが、水でいう15ccの大きさになっている為、スプーン部分を作った際すっぽりと入るようになっている。もちろん小さじ用も用意してもらった。
あっと言う間に作られた金型で、試作品の金属製の【計量スプーン】のスプーン部分を作ってもらったが、非常に精密に出来ていた。
ちなみに【計量スプーン】の完成形を金属で作ると、結構いいお値段を取られてしまい。
自分使いにはいいが、普及させるには向いていなかった。完全特注だしね。
「これはね、この球体の部分に沿って削っていけば目的のサイズになるようにした金属の型なんだスプーンの部分を作るときに使って欲しい」
「有難うございます!じゃあ作ってみますね」
そう言うと、シルネは自分の荷物から木工用の道具を出し始めた。
そして、炭ペンで半球の金具の平らな部分を木に置き、それに沿うように円を描き始めた。
しばらく半球の金型を眺めると、彫刻刀のようなものを持ち刃を木に当てた。
「いきます」
そう言った瞬間だった。
あっという間にある程度の荒削りが終わり、そこには【計量スプーン】の大体の形が出来上がっていた。
「えっ……。早っ!」
「えへへ〜。ユウ様が完成形のイラストを描いてくださいましたから《木工》スキルの《荒削り》を使いました。
完成形が頭に描ければ、仕上げ前位まではスキルの力で掘り進めてくれるんですよ」
凄い。
この世界でそういえば、初めてまともに創作スキルを見た気がする。
レムの《清掃》スキルによるピカピカの床もそうだが、弓矢を作り続け、熟練度が相当に高いと分かってはいたけど、スキルによるアシストがここまでとは……。
「まさかこんなに早いとは思わなかったよ。これが常識なら《料理》スキルがスキルとしてハズレと認識されているのもわかるかも……。」
この都市に来てからそれなりに料理を作ったり、手伝ったりして来たが、料理に対し使うスキルは、食材かどうかを見極めること以外、派手な職技はない。
予想では《千切り》!とか《微塵切り》!とか一瞬で出来ても良さそうなんだけどね。
「ユウ様!そんな事ないです!スキルとして女神様から授かっている以上必ずお役に立つはずです!ユウ様ならそれが出来るはずです!ぐすっ」
「だからだからハズレだなんて言わないでください……」
急に大声を上げてシルネが泣き出してしまった。自分の事より僕のことでハズレだと言ったのが、琴線に触れたみたいだ。
「あぁごめんね。シルネ。僕自身は《料理》スキルをハズレだと思ってないから。大丈夫だよ。ありがとう」
そう言ってまた頭を撫でながらシルネにハンカチとして使っている白い布を差し出す。
「ぐすっ。大丈夫です。ごめんなさいユウ様。ぐすっ」
ハンカチで涙をふくシルネが、落ち着くのを待つ。 ……あっやっぱり涙を拭く前に匂いの確認はするんだね。でもってハンカチは自分のポケットに入れるんだね。2枚目だよね。まぁあえて言わないけど。
「ここから先は普通に彫るの?」
改めて荒削りされ、大体の形となった【計量スプーン】を手に取り、落ち着いたシルネに聞いてみる。
「いえ、ここからはスキルの違う《技》を使います。あとは私のオリジナルですが、樹木魔法も活用して仕上げていきます」
そう言って【計量スプーン】を僕から受け取ったシルネは、金型を指でなぞりなにかを呟いた。
そして刃をスプーン部分にあて、また何かを呟くと先程と同じように高速で彫刻刀が動き一気に【計量スプーン】の形へと掘り進められた。
「やっぱり凄いね。これで完成?」
すでに見た目は木製のお洒落な【計量スプーン】そのものになっており、一見すれば完成物のように見えるが、どうやら違うらしい。
一度横に首を振ったシルネは、魔力を循環させその魔力を【計量スプーン】に纏わせた。
薄い緑色の魔力が消えたと同時に、シルネが大きく息を吐き出し。ニコリと笑った。
「ユウ様。完成しました」
差し出された物を受け取る。
それは確かに元の世界でも売っていそうな木製の計量スプーンそのものだった。
磨いたわけでもないのに、表面に凹凸はなくツルツルと手触りがよく。木の感触が心地良い。そして少し硬くなったか?
そして金型を合わせれば全く狂いなく削られていた。
試しに秤に乗せ、水を垂らせばぴったりと15cc入った事を表しており、その精密さが証明された。
「ユウ…さま?」
無言で完成品を確認する僕に、不安になったのか、シルネが今にも泣き出しそうなくらい、不安そうな顔をしていた。
「あぁごめん。いやぁ余りにも出来が良くて。完璧な仕上がりだよ。それにこの感触。ただ彫っただけなのにどうしてこんな」
「はい。今回使った職技は《敷写》と《解放》です。金型のサイズを写し取り、それを解放する事で木材に反映しました。そして最後に樹木魔法を使い、サイズを変える事なくその表面を整えました。その他にも本来木材にある水の通る管を塞ぎ、更に耐水性と耐腐性、耐久性を上げています。いかがでしょうか?」
凄いなスキル。というより奴隷の人たちも真面目にやって、これだけ出来るようになれば立派に役に立つんじゃないのか?
ここでも迷宮攻略優先の考えが邪魔をしてそうだ……。あの残念美神は何やってんだ。
シルネの《木工》スキルの有用性を確認し、そのまま一気に【計量スプーン(小さじ)】【計量カップ(500ml】【菜箸】【木べら】を作成してもらう事にした。
「それじゃあ。僕たちは迷宮に行ってくるね。道具の作成よろしくね」
「はい。頑張ります。帰宅後ご確認お願いします」
役に立てることが、嬉しくてたまらないのだろう。もしシルネが獣人だったなら、間違いなく尻尾が振られているだろうと容易に想像できる程、シルネの表情は今までにないくらいに明るかった。
「それじゃあ行ってきます」
『「ウォン!」』
そして僕らは、5階層に挑戦すべく迷宮へと向かった。
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