6.定められた旅立ち
「父さん!ユウの気配察知が!」
ジェイトがすぐに、前方にいるリカートへ、危険を知らせる。
この国は、良くも悪くもスキル至上主義。
気配察知のスキル持ちが、危険と言ったら危険なのは誰しもが理解している。
例え僕が、ハズレであっても……。
「何っ!全員警戒。トロイモ運搬の3人にガンヅ 、ファロは護衛として同行。もう森の出口はすぐそこだ走れ!」
父さんがすぐに周囲を警戒し、指示を出す。
大事な食料は、勿論第一優先で運び出す。
「ユウ。方向は分かるか?」
「うん。何となくだけど、あっちの方角から嫌な感じの何かが近づいてくる」
後方を指差したが、姿は見えない。
でも確実に危険は、濃くなっている。
「何にもいねぇじゃねぇか!」
緊張が続く中、指し示した方向を見た。コダンの罵声と共に腹部に鈍痛が走る。
「がはっ……」
突然蹴り上げられた腹部に衝撃が走り、一瞬足が宙に浮く。
本気ではない。
本気ではないが、幼児を苦悶させるには、十分な威力の暴力が振るわれる。
「コダン‼︎貴様何をしている!」
父さんが剣を抜きコダンに詰め寄る。
同時にコダンも、持っていた斧を振りかぶり、戦闘態勢に入る。
「うるせぇ 元兵士だからって威張り腐りやがって、所詮負傷兵だろうが!それに、こんな森にまで餓鬼2人も連れて来やがって、おままごとじゃねぇんだぞ!いざ危険だなんて騒げば何もねぇ!もううんざりなんだよ!」
腹部を蹴り上げられ、仰向けに倒れ込む瞬間。
先程指し示した方角。
まさにコダンの後方の樹上から、襲い来る一つの大きな影を見つける。
「う……え……」
その瞬間。
その場にいた全員が、警戒していた森の木々の隙間ではなく、樹上へ目を向ける。
しかしその時目にしたのは、大きな口を開け、コダンに襲いかかる真っ赤な眼をした。
非常に長い手を持つゴリラのような魔物。
その結末を見る事なく、僕は意識を失った。
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名前:ユウ
年齢:15
性別:男
職業:平民
固有能力:メニュー
スキル:料理 気配察知 投擲
備考:
あれから11年経った。
元の年齢から考えると51歳だけど、精神はしっかり15歳で知識や知恵だけが36年分、この頭の中に詰まってるって感じかな。
15歳を迎えたこの日。
とうとう村から出て行く事になった。
残念美神こと、この世界の神であるネルのと言う通り、15歳になるまで村八分の状態は続き、村長の執拗な嫌がらせを受けながら暮らして居た。
そして15歳になるのをきっかけに、村長の命により、村を離れる事になった。
向かうは迷宮都市。冒険者登録をし、迷宮に挑戦する。
と、その前にこの11年の間に、何があったか説明しようか。
あの日、トロイモも見つけコダンの暴力により意識を失った後。
襲いかかる手長ゴリラこと、ゴロローグは後ろを向いていたコダンを、背後から襲うように樹上から飛び降りた。
しかし、僕の声に反応し、襲いかかるゴロローグに気付き、斧を前に出したおかげで、運良く斧の刃がゴロローグの顔に命中。
コダンもその際、左腕を殴られ粉砕骨折の大怪我を負うが、その後対応した父さんと兄さん、そしてもう一人の同行者スインさんにより、討伐された。
後から聞いた話だと、この辺の動物達が居なくなっていたのも、無差別に襲うゴロローグに、手当たり次第食い荒らされ、動物達は一斉に森の奥地へ避難していたためだった。
その後すぐに動物達は戻ってきていた。
僕に対し暴力を働いたコダンは、僕に暴力を振るった事よりも、忠告無視で同行者を殺意を持って危険に晒した罪により、犯罪奴隷として街へ売られた。
その後は比較的平穏な日々が続き、自分自身は自分の能力の把握と、人目に付かぬよう、冒険者になる為の訓練をしていた。
投擲のスキルが出た時は、ホントに嬉しかったよ。
村の誰かに見つかると騒がれて、村では碌に特訓的なものはできなかったからね……。
村からも1人で、出れないし。
自分自身の能力の把握として、最初に取り掛かったのは固有能力の把握だ。
固有能力能力は4つ
しらべる
どうぐ
ちず
そうび
まさにRPGみたいな項目。
これを見た瞬間『は〜?』ってなったもんだよ。
ホントに。赤ん坊だったから声は出なかったけどね。
実は鑑定って言ってのは、《しらべる》の能力。
《メニュー》を意識すると、長細い長方形のレストランに置いてあるまさにmenuが視界に現れるんだ。
そこから、しらべるを選択すると《鑑定》
どうぐを選択すると《アイテムストレージ》
ちずを選択すると《マップ》
そうびを選択すると《装備》機能が使える。
各項目も、選択するとメニューがパラパラって、めくられて、対応するページに表示される演出付き。
勿論ゲームの仕様のように、1つ1つにショートカットボタンがあり、1つ1つの能力は意識するだけで、使えるようになってる。
このmenu出現の演出は、多分ネルの遊び心なんだろうなって少し笑えた。
ちなみに、両手で本を開くような仕草をしても、メニューが開くのはちょっとした裏技だ。
「お〜い。ユウ!馬車が出るぞー」
「はいっ父さん。今行きます!」
父さんの呼ぶ声に答えると、体をギュッと抱きしめられた。
「いいね。ユウ。無茶するんじゃないよ。あんたはこの村にいるべきじゃない。だから母さんも冒険者になるユウを応援したい。だけどねあんたには戦闘スキルないんだ。無茶はしないでおくれよ」
抱きしめられた首元を、温かく濡らしていく。
強めに背中を抱きしめながら母さんの声は震えていた。僕もぎゅっと抱きしめ返した。
ーーーあぁ。もう会えないんだな。
「ユウ。お前には事前に危険を察知する術がある。だから危険だと思ったらすぐ逃げろよ。一人じゃなくちゃんとした仲間を見つけろよ」
4歳の頃のように、ガシガシと強めに頭を撫でられる。
あの頃と変わらず、僕を気にかけてくれる本当に優しい兄さんだ。
ーーーそう。もうこの村には帰る事が出来ない。
「ありがとう母さん。兄さん。無理はしないよ。街まで行けば料理屋だってあるからね。生活はなんとかできるはずだから」
自然と流れ落ちる涙を袖で拭き、出来る限りの笑顔を作った。心配させないように。
「じゃあ行ってきます!」
大きめのリュックに、最低限暮らせるだけの荷物。
そしてこの日の為にと、貰った20枚の銀貨を詰め込む。
僕の15年の私物は、大きめのリュック1個分これが僕の全てだ。
見送りは家族だけ。
でも、僕にとってはそれで十分だった。
「さようなら」
僕の15年間。
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