59.料理の必需品
「うん。どうやらトラブルでは、ないようだ。楽しそうで何よりだよ」
値踏みしていた視線から一転、爽やかな笑みを浮かべるウックさん。先程の視線に混じっていたのは威圧だろうか。
いつでも見てるよ。そぅ言われたような気がした。
「はい!ウックさん。お義母さんのお陰で楽しく過ごせてます!」
どうやら今日は、この人との顔合わせの意味もあったようだ。シルネが随分と嬉しそうだ。
「そうか。おっと。すみませんね。いらっしゃいませお客様。ウック材木店へようこそいらっしゃいました。私はウックと言います。彼女とは同郷なのでつい話しを進めてしまいました」
「はい。同郷の件はシルネから聞いております。ユウと言います。よろしくお願いします」
最初にウックさんがエルフだと聞いた時、そんな秘密を言って良いのかと思い。またシルネがやらかしてしまったのではないかと思ったが、どうやらこのウックさんは、この迷宮都市において、エルフの守護を任されている人らしく、エルフの認めた人間であれば同郷である事を話しても良いらしい。
つまり、ちょっとやそっとじゃやられない強さを、持っているという事でもある……。
この強さを持っている人は《しらべる》をしたら、おそらく気付くのだろう。いつか見てみたいね。
「シルネが迷惑をかけたようだ。申し訳なかった。ただ彼女がこんなにも明るいのは、あなたのおかげだ。ありがとう」
「さて、今日はどの様な用事かな。何か欲しい木材でも?」
どうやら、ギルドでの一件は既に耳に入っているらしく。奴隷主となった者には非がない事は承知した上で、シルネの事は心配していたらしい。
先ほどの値踏みするような視線は、どうやらシルネが大切にされているかを確認していたようだ。
「はい。ウックさん。実はマロニの木の切れ端があれば譲っていただきたいと思いまして」
「ふむ。マロニの木ですか」
トントンと頭を指で軽く叩きながら思案するウックさんが、その動きを止める。
「はい。御座いますね」
そう言うと奥の方へ、向かい大きめの箱を両手で抱えながら戻ってきた。箱の中には数本の木材が立てられていたが、その中でも腰あたりまでの長さで直径20cm程の比較的真っ直ぐな木材を見つけた。
結局、そのマロニの木材を含め、箱に入っていた数本を購入した。
店を出る際、ウックさんから「彼女の事で、何かお困りになられましたら、いつでもご相談を」と耳元で言われ、見送られた。
エルフは常に狙われる身。何かあった際相談できるのはありがたい。
宿に帰ると、早速木材の用途についてシルネに説明する。
「さて、シルネ。このマロニの木でシルネには作ってもらいたいものがあります」
「え……。やっぱり何か作るんですね。弓矢ですか?でもこの木はそれには向かないと…」
エルフの集落で、半ば強制的に弓矢を延々と作らされていたシルネにとって、【木工】のスキルはハズレの象徴とも言える。
特に弓矢は自分が使えないのに、作らされていた為トラウマになりかけていた。
「違うよ。シルネの【木工】は僕にとって非常に役に立つスキルなんだ。シルネは結構熟練度高いでしょ?それって弓矢以外でも好きで何かを作ってた事があるんじゃないかな?」
「えっ?はいっ!お父さんとお母さんのために、家の椅子とか机とか置物とかいっぱい作りました。それに弓矢もお父さんとお母さんに良いものを使って欲しくて、嫌だけど頑張りました」
僕の持論では奴隷に無理やりスキルを使わせても、その奴隷のやる気がなければ熟練度は上がらない。だからこの迷宮都市でも【創作スキル】目的で奴隷を買う人はほとんどいない。
しかし、シルネは嫌々と思いながらも、両親の為にと言う思いで真剣に【木工】スキルを活用していた。だからこそシルネの【木工】スキルの熟練度は高い。
「そうか。有難うシルネ。そんな環境の中、真剣に木工スキルの熟練度を上げてくれて」
今からやって貰う工作は、熟練度が低ければ非常に難易度が高い。そんな中しっかりと熟練度を上げていてくれたシルネに感謝しつつ、その頭を撫でた。
「にゃーー。そんな事ないですぅ。それでユウ様私は何を作ればいいのですか?」
頭を撫でられ、少し安心しながらも、相変わらず不安そうなシルネに、イラストの書いた4枚の紙を見せる。
「これは?スプーンとコップ?それと2本の棒と、平たいメイス?えーとユウ様これは?」
イラストを見ても、イマイチピンと来ないシルネは、首を傾けながら紙を様々な角度にしながら見ている。
それもそはずだろう。おそらくこの世界にないものなのだから。
「これはね、料理に使う道具なんだ。この都市には無かったからね」
そう、僕が作ってもらおうとしているのは【計量スプーン】【計量カップ】【菜箸】【木ベラ】の4つ。
特に【計量スプーン】は大さじ(15cc)、小さじ(5cc)と【計量カップ】500mlは精密に作って貰う必要がある。
この世界では、まず料理の為の道具の開発が遅れている。まな板やおたまのような物は有るが正確に分量を計れるものはない。
だからこそ、調味料の量は目分量や作り手の勘頼みとなっている。これでは味が安定しないし、料理自体が広まらない。
その為まずは、試作品としてシルネにこの4つを作ってもらい、徐々に道具の有用性を広げていく必要があった。
塩の流通に目処が立った事で、少し先に考えていた道具の開発も、早急に必要になった今、4つのイラストを描き
シルネに作って貰おうと考えていた。
「なるほど。この【計量スプーン】と言うのを正確な大きさで作るのが大切なんですね。私に出来るでしょうか?」
そんな不安を覚えるシルネ対し、僕は事前に用意してあったある物を取り出した。
読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字があれば教えていただければ、直ぐに修正します。
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