5. 兄の手
「おい!ユウ早くしないと置いて行くぞ!なんでリカートはこんなハズレも連れてくんだ……。まったく」
山の中での採取と、狩猟の用意していると、毎回突っかかってくるこのおっさん。
こちとら4歳だからね!
ちなみに、伸ばし放題の山賊みたいな髪を、後ろで束ねた横幅大きめのこのおっさんを、鑑定でステータスを視るとこんな感じになっている。
名前:コダン
年齢:36
性別:男
職業:樵
スキル:伐採 投石
備考:
鑑定石では、固有スキルはなく職業の下に、スキルが出てくる。
備考は、殺人や強盗など重犯罪が認められた場合や、功労賞など一定のレベルの褒賞などを得ると、追記される。
腰に採取袋と、採取用の小さなナイフをくくりつけ、小さな歩幅でテクテクと、コダンの後ろに付いて行きながら、ふと考える。
今でこそ、この鑑定もこれだけの項目を、見ることができるようになったけど、最初は本当に酷かった。
実際このステータスも、何回もトライしてここまで見えるようになった。
初対面の相手には、まだまだ名前と性別くらいしか、わからない。
村長
農家
農家
平民
あの鑑定石での名付け時、僕の意識がはっきりしてから鑑定した結果だ……。
まさに目を疑ったね。
固有能力?
なにそれ?って感じだったよ。
それから必死に、色んな物や人を、鑑定しまくった結果。
壁
農具
農具
農具
種
芋
芋
・
・
・
クワイモ
鍬
鎌
シャベル
こんな感じで、鑑定を繰り返して使った結果。
各スキルは、使う事で熟練度が上がる事が、わかった。
レベルアップ同様、感覚的に成長を感じられるから、やりがいはあったけどね。
鍬・・・田畑を耕やす農具
クワイモ・・・イモ科 食用
って感じで用途や、一応食べられるか迄は出るようになった。
大量に物置に保管してある。クワイモの1個1個が、少なくとも経験値になって良かった。
これが1種1回のみだったら、ホント悲惨だったよ……。
「おーいユウ!こっちだこっちだ」
村の門の近くまで着くと、大きな棍棒を肩に背負った茶髪の兄さんが、満面の笑みで迎えてくれる。
「兄ちゃん!」
そうこのイケメンこそ、我が家の期待の星、ジェイト兄さんだ。
父さんも母さんも顔が整ってるし、兄さんはイケメン。
その事実だけで、自分の顔が不細工じゃないだろうと、勝手に期待している。
10歳にして、70cm程の丸太の持ち、手だけを加工した無骨な棍棒を軽々振り回す筋力。
この前の狩猟では、一直線に突撃してくる猪のような動物の頭を、正面から叩き割っていた。
村八分状態の僕の、強い味方だ。
「ユウ。またコダンさんに、虐められたのか?あの人もなに4歳児にムキになってんだか。ユウは、いつも通り周囲を警戒してくれよ。それだけで危険が、うんと減るんだから。頼んだよ」
ガシガシと頭を撫でられるが、悪い気は全くしない。
寧ろ嬉しい。
この世界に来てからの、こういう感情はしっかり、4歳児だ。
「分かったよ。兄ちゃん。でも僕だって毎日お父さんの作ってくれた木の剣振ってるんだからね」
そう言って、振り下ろすマネを何回か披露したところで、狩りのリーダーの父さんが、声を上げた。
「では、これより今月3回目の狩りにでる!残念ながら前回は動物の姿はなく、空振りに終わってしまった。念のため今回も昨日仕掛けてもらった罠の場所を中心に、少し奥に入ってみようと思う。各自警戒しながら進んでくれ。また道中見つけた食料は少しずつでも採取してくれ。獲物が見つかれば減らせばいい。では行くぞ!」
「「「おう!」」」
10分程で近くの大森林に到着した。
今までの平野とは違い、見通しの悪い森では、否が応でも進行速度は落ちて行く。
慎重に獲物を探しながら、途中何箇所かある罠を、確認して周る。
「リカートさん……」
「あぁ。やはりおかしいな。こんだけ獲物の姿が見えないなんて」
すでに5箇所の罠を確認したが、動物の形跡すら発見できず、残り2つの罠への期待も低くなっていく。
そして、森に入ってから僕の気配察知に、なにも引っかかってこない。
「兄ちゃん。兄ちゃん。あれトロイモの葉っぱじゃない」
「ん?どれだい?」
罠の近くで、大人達が今後の方針について話している中。周囲の葉っぱを鑑定しつつ歩いていると、トロイモという、元の世界で言う自然薯が見つかった。
これは、滅多に見つからない為人気も高く、栄養価も高く大きさも非常に大きいことが多い。
たまに収穫されると、大いに喜ばれる。
木に巻きついた蔦を鑑定する。
トロイモの葉・・・イモ科 根部分が粘り気が多く 栄養価が高い 食用
4年間の修行の成果で、少し項目が多くなった。
「おぉー!ホントだよく見つけたぞユウ!父さん!ユウがトロイモを見つけた!」
「なに!本当か!狩りに成果が出ない中、良く見つけた!偉いぞユウ!」
ガシガシと頭を撫でられ、父さんは皆に声をかける。
「よし皆んな周囲を警戒。傷付けないように掘るぞ」
10人ほどの男達が慎重に穴を掘ること1時間。
3m以上あるトロイモが掘り起こされた。
中々立派な自然薯だ。こちらではトロイモだけど、以前食べた時は厚さ1cm程の輪切りにされてそのまま焼いただけで出て来たっけ。
それでも、あのホクホクした感じは、まんま自然薯だった。
出来れば、塩くらいはかけて焼いて欲しかった。
贅沢は言わない。
せめて今回は……。そうだ卵があった。それと塩と細ねぎも道中に代用できる野草を見つけたし……。
夕食が楽しみだ!
「おーい。ユウ?大丈夫か?もう行くぞ。今日は大物がユウのお陰で手に入ったからもう帰るってさ。明日また出直しだ」
「はっはい。ごめんなさい。僕この前食べたトロイモが、美味しくてつい……」
「確かに。トロイモはうまいよな。じゃあ無事持ち帰ろう!途中果物か、野草を採取しながら帰るってさ」
途中、山の恵みを採取しながら、帰路につく。
皆トロイモはご馳走で、今回狩りの成果が出なかった気分の暗さは、振り払われていた。
でもそんな時だからこそ、油断しちゃいけなかったんだよね。
「兄ちゃん。なんだか嫌な予感がする。早く森をでないと」
《気配察知》
僕のこの狩りに期待されたスキル《気配察知》が、いつもより大きな危険を知らせた。
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