48.閑話 歪み行く世界②
どうしてこうなった?
僕の思い描く世界は、もっと自由で活き活きと迷宮を攻略する世界だった。
新しい魔道具を作ろう。
「なにが良いかなぁ……。」
魔道具の核となる頭ほどの大きさの球を転がしながら考える。
「そうだ!他の世界の様子を見てみよう。なんか参考になるはずだ!」
そう考えて僕は、非常に発展していると言われている世界”地球“を観察する事にした。
そしてその地球の、最も”おたくぶんか“という最も異世界の研究が盛んな日本をいう国を見る事にした。
「おぉ。おぉなるほど!なんとこんな方法もあったのか。ん?おぉこれは僕の世界の迷宮都市と変わらないな。やはり迷宮あるところ、都市が発展するのはどこも同じだね」
そんな生活を送っていたある日。
僕は【ボーリング】というスポーツを見つけた。
そして、僕の目の前にはボーリング球と同じような大きさの、魔道具の核にしようとしていた真球。
そして、僕の作った魔道具の失敗作の数々…。
「おりゃ!」
バッカーン!
目の前で【ボーリングピン】のように並べた10個の失敗作たちが弾け飛ぶ。
「ストラーーイク!」
「気っ持ちい〜〜。なんて爽快なんだ! あれ…? あれれ? 球は?」
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
ピチョン。。。
「あっ…」
うん。まずいよね。これは本当にまずい。
どうする。どうする。どうする……。
「よしっ!転生してもらおう」
幸運なことに、この地球は決まった神が管理する世界ではない。
現に様々な異世界に地球人、特にこの日本人は召喚されまくってる。
それはもう神隠しという言葉が定着するくらいに。
”高校生“
というやつではないし。なんか歳はとってるけど転生だし問題ないか。
サクッと転生してもらおう!
「残念美神さんか。。。」
「違いますよ!何ですかその残念さんと残念美人で神様だから合わせたら上手くいったみたいな流れは!」
何度も何度も、後ろから声をかけても、無視してくる初めての転生者は、僕に変な名前をつけた。
そして本人は、海藤 優という名前だった。
歳も36歳で、どう考えても性格的に争いごと向きな感じではなかった。
僕の世界でやって行けるだろうか?
だけど、久しぶりに話した人間との会話は意外にも楽しく、僕はこの真面目だが、どこかスケベな男に振り回されっぱなしだった。
「はっきり言ってくれ!」
「はいっ‼︎僕が遊んでて神界のボール推定5kgを天界から落として、それに運悪く海藤さんが巻き込まれ頭がピチョンしました!本来死ぬはずじゃなかったので元の世界に空きはありません!異世界に転生しないと魂消滅必須です!以上」
突然出された大きな声に、つい本当の事を全て喋ってしまった。僕は神さまなのに……
「なぁあんたは、バツが悪くてさっさと転生させようとしたわけだ」
「いっいや〜。僕はそんな事しないですよ」
「……」
「……」
「すみませんでしたー‼︎はいー確かにごまかして勢いで転生させようとしました。どうせ記憶なんてなくなるし良いかと」
転生させなきゃ本当にまずいんだよ。僕が……。いやもちろん君もだよ。
でも全部話してしまった。
そしてぼくが、彼の夢を奪ってしまったことも知ってしまった。
ーーーごめんさい。
ちゃんと謝ったらユウも許してくれて、落ち着いてくれた。
この世界の事を色々話した。
彼は【料理人】になる事を諦め切れないと言った。
僕も応援しようと思った。
そして、彼と話していると、彼の包丁が何かを伝えてきた。
『彼の役に立ちたい』
そう言った。いやそう言ったと、確かに感じた。
彼の包丁には、他の神の加護がかかっていた。
僕はその加護に、僕の加護も加えて、ユウと僕の世界に一緒に行けるようにした。
【料理人】になりたいという彼の助けになるようにと。
初めての転生者であるユウの生涯が、僕の世界にどれくらいの影響を与えるのか分からない。
いや全く影響を与えない可能性だってある。
僕のこの歪んでしまった世界でキミは…。
「それでは転生を始めます。最後にユウさん。向こうの世界はスキルが全てでは無いです。同時に困難ではありますが、努力次第でスキルは身につきます。ほとんどの人がその前に諦めてしまいます。自分自身の為努力する事。これを忘れないでくださいっ!」
本当はもっと話したかったけど、時間がなかった。そして最後に、伝えたい言葉を早口で伝えた。
僕の与えた力はスキルと固有能力。
だけど一番伝えたかったのは、成長する力。全ての者に与えられているはずのその力を可能性を信じて欲しかった。
だからそれを意識できるように、スキルも固有能力も成長を感じられるようにした。リソース不足は確かだけど…。
「頑張って下さい。ユウさん」
すでに転生したユウさんへ、願いを込めてそう呟いた。
「?」
何か忘れているような。
すごい重要な。
ユウさんの人生を左右するような……。
「!」
「あーーーーーーー。しまったしまったしまった。料理がほぼ求められてないことも、料理する環境が全く地球とは違う事も、料理スキルが不遇である事も全部伝え忘れたーーー!」
たぶん彼は、ものすごく苦労するだろう。最初のうちなんて、まともに料理すら作れないんじゃないいだろうか。
「ごめんね。ユウ」
一通りは迷宮で手に入るからね……。
てへ!
僕はこれからも、この初めての転生者であるユウを見守ろう。
願わくば、彼が冒険者になった後に、自分で自分の道を開けますように。
これで閑話は終了です。
次話からはまた通常に戻ります。




