47.閑話 歪み行く世界①
創造神【ネル】の主人公ユウを呼ぶ前。この世界がこの世界になる前の話しです。
「またダメだった」
深い溜息と共に、その視線の先にはダンジョンの62階層で、全滅したこの世界の最高ランカー達の姿があった。
「はぁ〜。またしばらくは、この階層に辿り着ける冒険者は出ないや」
この溜息まじりに下界を観察する者こそ、創造世界『ネルモンテ』が主神【ネル】
後に、ユウによって残念美神と呼ばれる事になるこの世界の最高神、いや創造神のはるか昔の姿である。
「なんで上手くいかないかなぁ。それにこいつらまともに迷宮攻略する気あったの?折角僕が加護を与えてあげったていうのにさ!このっ このっ このっ!」
地面にうつしだされた映像を、憤りとともに踏み締める。
うーん。本当に苛つく!
多くの神達が、私達の必要不可欠なエネルギーである《神力》を集めるために、数多の異世界を創っている。
でも私が創造した世界はこれだけ。この世界に集中することで、安定した《神力》の確保をするつもりだった。
でも、上手くいかない。
多くの神が複数の異世界を作り、ある程度創造したら放置する。ほんの少しの《神力》を得るために。
薄利多売のような戦略を取る中。僕は、そのやり方にどうしても納得がいかなかった。
一瞬でも生み出した命。
自分が生み出した命に関心を持たないなんて、僕には出来ない。
だからきちんと管理すれば、薄利多売ではなく安定して大量の《神力》を得られる世界が作れるんじゃないか。
そう思った。
「なのに!なのに!」
他の神達が創った創造世界に、類を見ないほど世界は発展した。
いくつもの国が生まれては消え、生まれては消えを繰り返す。
生物達にはスキルを与え、《神力》の濃度を高めるために成長する力を与えた。
魔物には進化を、それ以外の者達には経験値と言う名の吸収した《神力》に比例し、魔物よりも成長出来る可能性を与えた。
亜人も含め、各種族ともに人族は発展し栄えていった。
しかし、迷宮攻略を第一とする世界を創ったは良いが、人族はどの種族も同じような主義へと、必ず歴史は進んでしまった。
“スキル至上主義”
ステータスが分かる《神在板》を使用し、生後すぐに能力鑑定を行う。
そのスキルの有用性によって、その者を優遇もしくは冷遇する。そして武器に補助がかからず、村でも街でも役に立たないスキル持ちは迫害された。
その者の潜在能力や、英雄にも届く事の出来る成長度など、スキルに現れぬその可能性を全く無視するかのように。
生まれ持ったスキルが良い者は、幼少期より厚遇され立派な冒険者へとなるよう成長していく。
そして同じような価値のスキル構成を持った者と、パーティを組み迷宮へと挑戦する。
僕が作った迷宮攻略を中心にした世界に、無駄なスキルなんてないのに……。
努力すれば後天的にスキルを得ることだって出来るのに……。
でも、最初は非常に効率がいいと思った。
だけど違った。
ある程度まで潜ると、頭打ちになるのだ。
同じようなスキル持ちが集まったパーティに様々な能力を試される迷宮への対応力はなく、自分たちの苦手とする魔物が出れば、対応しきれない環境下になれば、それ以上進めなくなってしまう。そしてそれ以上を諦める。
環境は挑み続ければ、耐性が出来るのに、魔物だってきちんと経験値を積めば倒せるようになるのに!なんで諦めるんだ……。
そして、優良スキル同士で集まったパーティは、他者を引き離し、高ランクの迷宮を深くまで攻略し、英雄的な扱いを受ける。
そう。目の前に倒れている彼らこそ、現在の最高ランク。いや元最高ランクの冒険者達だった。
彼らは賞賛された。特別な扱いを受けた。だからいつしか深くは潜らなくなった。
「またダメだった。いっつもいっつも同じ。たまに、こういう高ランクのパーティができて、大量の《神力》を集めてくれるけど、そのパーティが全滅しちゃえば、あとはそれなりの冒険者が残され一気に回収できる《神力》が減っちゃうのよ!」
またバカにされる。
薄利多売の他の神達は、それなりの量を数で補っている。一時的に多く入っても意味がない。
『ネルもいっぱい創造すればいいのに』
会合で必ず言われるこの言葉。
どうすればいい。どうすれば多くの《神力》を集められる世界になるんだろう。
「そうだ!」
「そうだよ。スキルの鑑定時は仕方ないけど、冒険者になればスキルを秘匿するのが常識の世界にすればいいんだ!」
思い立ったが吉日。
ーーー僕は、僕の世界に新たなルールを加えたーーー
“冒険者はなるべく、自分のスキルを秘匿する”
ある程度世界が成熟してからのルールの追加に、どういう影響が出るのかは、わからない。
だけど僕のこの選択は、冒険者パーティの爆発的増加をもたらし、様々なスキル構成の冒険者と冒険者パーティを誕生させた。
ーーーだけど
また問題が起こった…。
冒険者達が、人前で本気で戦わなくなった。
いや。正確には戦えなくなった。
僕のルールに縛られ、他者にスキルが判明することを恐れた冒険者達は、パーティメンバーの前以外での戦闘に、大いに迷いを生じさせていた。
続々と魔物に侵略される都市、そして進まない攻略。
ーーー僕は、僕が歪ませた冒険者達へ贈り物をしたーーー
”《認識阻害》この能力を付与した冒険者タグ。そして様々バリエーションの《認識阻害》の魔道具を“
僕の作った魔道具は、非常に優秀だった。
人族の世界では犯罪の増加などの問題は起こったが、それも《認識阻害》の効力を調整し対応した。
僕は考えた。
もっと効率良く迷宮から《神力》を集める方法があるんじゃないかと。
そして、創り出した。
【神魔石】を。
この発明は、神界に衝撃を与えた(と僕は思う)。
それまでの迷宮での回収量は大幅に上がり、1階層の最初から順々に潜る必要のなくなった冒険者たちの攻略効率は、驚くほど上がり、より深い層での攻略時間が飛躍的に増加した。
多くの高神に褒められた。認められた。
僕は有頂天になった。もっと多くの《神力》を、もっと効率の良い回収方法を!
調子に乗った僕は、僕の世界に、より干渉し始めた。
ーーーそして、歪んでしまった。
よりスキル重視の世界に。
スキルのない者は迫害され、奴隷としても冷遇される。まるで物のように…
亜人種ではない普通の人族の国が台頭し、多くの亜人が奴隷狩りに合うようになった。
文化が停滞した。それは芸術であり、食事であり、伝統的なものへの興味が低くなったことを示していた。
迷宮が優先される歪んだ感情の世界に。