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44.戦士の尊厳

大きな集団から抜け出し、全速力で【ゴブリンジェネラル】の元へと駆け出す。


その瞬間。目の前の集団の両脇から5体ずつ。計10体の黒いウルフに乗ったゴブリン達が一斉に姿を現した。


「【ゴブリンテイマー】だ。気をつけるんだユウ。乗っているのはブラックウルフ。夜が近くなるほど、速度と力を上げる魔物だ!」


「はい。『キハク行くよ!』」


『はいです〜』


向かって左側から襲いかかる【ゴブリンテイマー】に対し、大量に拾っておいた【ゴブリンシーフ】のナイフを立て続けに投擲する。


「ウォーン!」

先頭の少し大きなブラックウルフが吠えると、5匹は驚くほど見事な連携で左右に展開し、投擲されたナイフを躱わす。


残り30m。


リーダーウルフの身体能力の高さに驚きを隠せないが、部下達の能力はゴブリンを乗せているだけあって少し落ちている。


一瞬反応が遅れるブラックウルフに狙いを定め、ナイフを指の間に挟み込み、右手から2本、左手から2本を同時に投擲する。


「ギャウン!」


ブラックウルフを狙ったナイフは、避けられる事なく右に展開した二匹の足へと突き刺さる。

前のめりで倒れ込むブラックウルフにつられ、騎乗しているゴブリン達が前方へと振り落とされる。


「よっ! ほっ!」


再度放たれるナイフは、倒れ込み混乱しているゴブリンの頭部へと吸い込まれ、そのまま2体の【ゴブリンテイマー】の命を奪った。


残り15m


すぐ近くまで迫った3体の【ゴブリンテイマー】に対し、《血桜》を抜き構える。


獲物はゴブリンではない。あくまでもブラックウルフ。

足を狙い、機動力を奪う。それだけでいい。


「さぁ来いよ。お前達もきちんと料理してやる!」


ゆっくり、落ち着いて息を吐き出す。

調理前のように集中し、その食材となる材料を見つめる。

どこから包丁を入れるのか。食材は触りすぎると品質が落ちる。優しく無駄のない動きで手早く処理をする。


心が落ち着き、よく集中できている。

ブラックウルフウルフ達の動きが良くみえる。


残り0m


リーダーウルフの牙を、そして騎乗している【ゴブリンテイマー】の短槍による突きを躱す。


そしてすぐに、迫り来るブラックウルフの足を切り裂き、怯んだ【ゴブリンテイマー】達を、後ろに続く【ゴブリンテイマー】に向け体当たりをする。


「キャイン!」 「ギャウ!」


揉み合い、ブラックウルフから投げ出された【ゴブリンテイマー】達の喉から血飛沫が舞う。


キハクの牙が、落ちた【ゴブリンテイマー】達に留めを刺していた。


そのまま倒れ込んだウルフ達に、素早く《血桜》を刺すと、すぐさま振り返る。


「痛っ」


身を翻し反転したリーダーウルフの爪は、なんとか躱したが、テイマーの投げた槍の切先が左腕を掠る。

じんわりと滲む血に、ヒリヒリとした痛みを感じる。


『主様!』


「大丈夫!」


すぐさまポーションをかけ、傷口を塞ぐ。

その間に【ゴブリンテイマー】は先程倒した2体の近くにいるキハクも襲い、避けたキハクの隙をつき短槍を回収していた。


チラリと見ると、ギルド長の元に向かった【ゴブリンテイマー】達は、実力差を感じ遠巻きにギルド長を囲っていた。

そして、痺れを切らした1体がこちらに向かおうと、隙を見せれば切り落とし、残った4体の【ゴブリンテイマー】はギルド長に釘付けにされていた。


「うん。こっちも頑張んないとね」


『キハク!』


キハクの名を呼ぶとキハクの体が薄っすらと輝きを増す。


《聖術》


光属性を纏い身体能力を強化したキハクが、リーダーウルフの爪を避ける。


3


2


1

「ガゥワー!」

タイミングを計り放たれた咆哮は、光属性を纏い【ゴブリンテイマー】達に襲いかかる。


虚を突かれ、反属性の光属性で攻撃されたリーダーウルフは一瞬のたじろぎを見せた。


【ショットガン】

握りこんだ多数の小石が放射状に拡がりながら、【ゴブリンテイマー】達を襲う。


ただ複数の石を投げるのではなく、スキルによって一つ一つ強化された石が強烈な威力を有し飛んでいく。

この戦いで投擲の熟練度が増し、【スナイプ】【ショットガン】の2つの技が使用可能になっていた。


「ギャギャギャ!」


ほとんどの石がリーダーウルフにヒットし、そこにはボロボロになったリーダーウルフがいた。

しかし、その後ろに隠れた【ゴブリンテイマー】が重傷を負ったリーダーウルフの首を掴み必死の形相で何かを命じている。


(大丈夫か⁈)


などと労わる言葉をかけているのではない事は確かだった。


ふらつく足を必死に踏ん張り、体を起こすリーダーウルフはまさに戦士であった。

何かを訴えかけるように、こちらを見つめるリーダーウルフに、一度頷くと目の輝きが増した。


「グガァー」


瀕死の体を大きく振り、自分に騎乗した【ゴブリンテイマー】を前方に振り落とすと、最後の力でその首を噛み切り「ガゥ」と一声あげ、その瞬間自分もその命を散らした。


『主様。この大きなウルフ。最後に「ありがとう」って』


テイマーはあくまで、信頼関係で成り立っている主従関係だ。あの時【ゴブリンテイマー】は明らかにリーダーウルフを盾にした。そしてそれをいたわることもなく、すぐさまこちらに向かうよう命令した。

その瞬間、主従関係は途切れたのだろう。


最後の最後に自分のやるべき事を見つけ、自らの命と引き換えに自分の尊厳を踏みにじった【ゴブリンテイマー】の命を奪った。


まさに戦士の死に際だった。


「キハク」


キハクをひと撫でし、彼を食すように指示をする。


《しらべる》



名前:

種族:シャドウウルフ

年齢:8

性別:雄

固有能力:影移動

スキル:影術 指揮 咆哮


ブラックウルフの進化体。影を纏い、影に潜ることの出来る暗殺に向いたウルフ種だ。


おそらくはあのゴブリンと共に、ブラックウルフからシャドウウルフへ、ゴブリンから【ゴブリンテイマー】へと進化したのだろう。


そして、進化したばかりのその熟練度では、騎乗させたまま能力を使う事は出来なかった。


彼らの連携が見事だったのは、彼が《指揮》していたからだろう。

まさに本人は優秀なリーダーだった。その主人がこのウルフの能力を潰してしまった。


僕は、キハクの能力を十分に引き出せるだろうか…。


心配そうな僕の膝にキハクが擦り寄り、鼻を擦る。言葉には出さないが心配してくれているのがよく分かる。


一旦深呼吸で落ち着いたあと。リーダーウルフの腹を裂き、一口大にした肉をキハクに与える。


「ウゥー」


漏れ出した魔力がキハクを纏う。

そして、そこには真っ黒なシャドウウルフとなり、少し大きく中型犬ほどの大きさになったキハクがいた。


『主様。成長しました』





更新遅くなりました。本日分です。

よろしくお願いします。

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